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「将棋体力が凄まじい」“名誉王座”へ藤井聡太21歳に先勝…永瀬拓矢30歳のスゴみ「評判が積み上がっている」と中村太地35歳も戦慄のワケ
posted2023/09/12 06:01
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
Takuya Sugiyama
最近の将棋では、中継に表示されるAI評価値が大きく変動した局面が“形勢逆転”として扱われる機会が増えました。藤井七冠の大逆転劇を筆頭に、評価値の存在によって将棋ファンの皆さんも手に汗握る展開を楽しんでいるかと思う一方で――これはスポーツ各競技の「流れ」と呼ばれるものに近いかもしれませんが――複雑な局面を迎えるにあたって、評価値には現れない“人間的な難しさ”を感じています。
評価値をより深く感じられる「候補手」の見方
では、人間である棋士はどこに難しさを感じているのか。それを知っていただく目安として、評価値とともに表示される「候補手」の見方を少し説明しますね。
中継によって「最善手〈BEST〉から3~5番手」まで出てくる候補手ですが、これが例えば評価値では〈先手60%-40%後手〉となっている中で「最善手だけが60%のまま。2番手は-10%になって互角、それ以降は-25%など、むしろ先手が悪くなってしまう」局面がありますよね。「こう指すしかない」という状態が続く、いわゆる〈BEST〉を指し続けるのは人間の感覚としては困難です。時にはその〈BEST〉の一手自体、とても難易度が高いケースもよくあること。
その状況というのは……数値で見る限り一見不利そうな後手側からすると、実は“逆転の道をたどれる”攻防手を放ちやすいケースが発生していると言えます。
永瀬王座なら“狙ってやっている”?
永瀬王座と藤井七冠が相まみえた王座戦第1局も、そんな側面があったと個人的には感じています。
先手の藤井七冠は評価値ではやや優位ながら、盤面の中央に金銀がある中で攻めと守りのどちらに方針を立てるかという選択を迫られた。このように選択肢が多くて難しい局面を迎えさせるというのは、藤井七冠相手に勝つための1つのテクニックなのかもしれません。
これまで藤井七冠は数々の大逆転を演じて劇的な勝利を挙げてきました。