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熱帯夜トンガ戦の勝利は“良薬”に? 敵将に「3、4年前の方が強かった」と言われたラグビー日本代表が“W杯まで1カ月”で強化すべきこと
posted2023/08/01 11:03
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
W杯を前に、日本代表、ようやくの勝利である。
トンガ相手に21対16、しかも最後の最後、松島幸太朗のトライセービング・タックルが決まっていなかったら、逆転負けしていた可能性が高いことを思うと、薄氷を踏む思いであったことは否めない(先週のサモア戦で、松島はソフトなタックルを外されてトライを献上しており、これで名誉挽回)。
スカッとした勝利とはならなかったが、試合後に喜ぶ選手たちの姿を見ると、どれだけ勝ちを渇望していたかが分かり、この勝利は良薬になるだろうという予感がした。
トンガ戦は明確な改善と、積み残しの課題が混在した試合だった。「勝って反省できる試合」という、コーチ陣がいちばん喜ぶパターンである。
準備していた“もうひとつの仕掛け”
喜ばしいのは、ようやくバックス「ムーブ」(サインプレー)からふたつのトライが生まれたことである。
ひとつはスクラムから、もうひとつはラインアウトからである。
いずれも一発で取ったトライ。「日本代表はこうでなくっちゃ」という成果である。
おそらく、アタックコーチのトニー・ブラウンのアイデアだろうが、ここではスクラムからのトライの設計を分析してみたい。これは「角度」とマシレワの強さが生み出したトライだった。
安定したスクラムが基盤となり、アタックラインには10番・李承信と12番・長田智希が並んで立っていた。早い球出しから9番・齋藤直人が持ち出すと、まずは長田にパス。すると、長田は後ろに走り込む齋藤に「内返し」のパスを放った。当然、トンガのディフェンスはいったん、「うん?」という形で内側に引きつけられる。
日本代表は、そこからもうひとつの仕掛けを用意していた。