テニスPRESSBACK NUMBER
「怖いなと思いました」車いすテニス全仏王者・小田凱人17歳が語る加藤未唯“失格事件”「加藤選手は結果で取り返してくれた。さすがだと…」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byGetty Images
posted2023/07/06 17:00
全仏オープンの女子ダブルスで”失格判定”を受けた加藤未唯は、その後の混合ダブルスで優勝し、異例のスピーチを行なった
そもそもスポーツマン(パーソン)シップと言われても、多くの人はその言葉を知っているが、それが具体的にどういうことを意味するのかと問われると戸惑ってしまうのではないだろうか。日本スポーツマンシップ協会のハンドブックではスポーツマン(パーソン)シップを以下の様に規定する。
「スポーツマンシップとは『他者への尊重』『自ら挑戦する勇気』『諦めずに全力を尽くす覚悟』を備えた上で『Good Gameを実現しようとする心構え』のこと」
スポーツの世界、特に勝負という側面で考えたときに、勝つことにしか価値が見出せない“勝利至上主義”に陥りがちになってしまう。今回の騒動でも相手ペアがスポーツマン(パーソン)シップにもとる行為と批判されるのは、加藤、スーチャディ組が失格になれば、当然、このマッチを勝ち上がることになる。相手を敗退させるために執拗な抗議を行なったのではないか、相手を失格にすることで勝ち上がるために抗議を行なったのではないかという疑念が拭いされないからだった。
ただ小田が考える問題の本質は、そうした一つ一つの事象ではなく、もっと内省的なことだった。こういうトラブルは些細なアクシデントからいつ何時起こるかわからない。しかしその時に問われるのはプレーヤーがどれだけ自分の振る舞いを意識していたか? それはまさにスポーツマン(パーソン)としての競技との向き合い方が問われる問題だという思いだ。
「今回に関しては凄くイレギュラーな形だったと思うんですよね。加藤選手も(ボールガールに)結構ボールを強く打っていて、それもそれであまりないことなので……。自分としてはそれもイレギュラーなことなのかなというのもあります。だからどっちがいいか悪いかは分からないんです。でもあの出来事を振り返ると、事件を起こすとか起こさないとかではなくて、改めて自分自身でプレーヤーとしての振る舞いを強く意識するようになりました」
怒らないと覚悟を決めて、自分との約束事に
小田は2006年生まれの17歳。9歳のときに左脚に骨肉腫を発症し、車いす生活となった。12年ロンドンパラリンピックで金メダルを獲得した車いすテニスのレジェンド・国枝慎吾選手の姿に触発され、それをきっかけに車いすテニスに挑戦。本格的に競技に取り組み出すとメキメキと頭角を現し、20年のジュニアマスターズの国際大会で優勝。21年には史上最年少で車いすテニスジュニア世界ランキング1位となった。22年にプロ転向。同年11月の年間世界王者決定戦で史上最年少の世界王者に輝いている。
「僕は試合中には怒らないと覚悟を決めて、それだけはもう自分との約束事としています」
小田は言う。