ボクシングPRESSBACK NUMBER
「あ、ここで負けるのか、俺」村田諒太がゴロフキン戦を改めて見て抱いた“あの日と違う感情”「向こうもきつかったんだな」「悔しいと思うのは…」
text by
村田諒太Ryota Murata
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/05/05 11:05
ゴロフキンに上から右をかぶせられ、リング上で崩れ落ちた村田諒太。その瞬間の映像を見る村田は姿勢をただし…
その直後、左フックを振るったところにゴロフキンに上から右をかぶせられ、リング上によろよろと崩れ落ちていった。刹那、画面右端から棄権の意思表示である白いタオルが舞い込んできた。
当日のリング上で僕はタオル投入に気づいていなかった。試合終了を告げるゴングがカン、カン、カンと鳴り、青コーナーから駆け込んできた田中繊大トレーナーに抱えられて初めて負けたことを知った。僕は笑っていた。「やっちまった」という苦笑いの感情と、試合が終わった安堵感がかすかにあったように思う。
ただ、画面に映し出されたゴロフキン陣営の心底喜んでいるシーンを見て、あの日とは違った感情も湧き上がってくる。
向こうもきつかったんだな。
悔しいと思うのは、通用していたからだ
自分がこのラウンドを耐えきっていたら、試合の行方は分からなかった。逆転の可能性はあったんじゃないか。試合映像を見終えて、真っ先に湧き起こってきた感情は「悔しい」だった。
敗因は一言でいえば、キャリアの差だ。ゴロフキンは休めるときに休んで、試合全体をマネジメントしていた。これまで世界戦を30戦近く戦ってきた中で培われた実戦力といってもいい。あれだけKOを量産してきたのに、12ラウンド戦うことを見越したようにラウンドごとの戦い方にメリハリをつけていた。
「タラレバ」になるが、僕はもっと長いラウンドのスパーリングをやっておく必要があっただろう。スパーリングパートナーが多くなかったこともあり、最長でも1日8ラウンドまでしかできていなかった(メキシカンの3人は本当によく頑張ってくれた。クリスマス、年末年始も日本に残って僕に力を貸してくれた)。12ラウンドのスパーリングでペース配分するような練習も必要だったな、と映像を見て思う。
悔しいと思うのは、僕のボクシングがゴロフキンに通用していたからだ。間違いなく通用していた。恥じることのない試合ができたと思う。この経験を生かせば、次はもっといいボクシングができる、もっと強くなれると思った。