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25年間ずっと最下位のナゾ…東大野球部はなぜ弱い?「“おまえ野球やめろ”は許されない」ヤクルト高津監督と東大野球部の“決定的な差”
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/04/24 17:02
1998年春から50季(25年間)連続で東京六大学リーグ最下位の東大野球部。なぜ弱いのだろうか?
「試合に出られる人が出られない人に“おまえやめろ”と言ってしまうのは許されない」
大学4年生にして状況、そして人の行動が見えている。大人の視点だと思う。ただし、松岡と面と向かって話し合った形跡は見られない。
少なくとも、2022年の東大野球部では衝突から生まれる激しいエネルギーはなかったのだろう。
組織としては、未熟だったと言わざるを得ない。
西山だけでなく、4年生部員の生の声が続く第6章の「三十三人の四年生部員は、違う夢を見ていた。」は極めてスリリングだ。
「夢」というポジティブな言葉がもぐりこんでいるが、現実に起きてしまった「同床異夢」という現象を、立体的に構成することに成功している。おそらく、当事者たちも読んで気づくことが多いのではないか。
「負けているチームの話の方が面白い」
実はこの本を読んでいる最中、私は戸惑いの中にいた。
私は現在、ヤクルトスワローズの高津臣吾監督のチームマネージメントに関する本の仕上げに入っており、プロ野球の集団の戦力をどうまとめていくのか、そのために必要なスキルについて、高津監督の言葉と向き合う作業をしていた。
正直、とても同じ競技を扱っているとは思えなかった。
高津監督はいう。
「チーム一丸となるために必要なことは、相手が何を考えているのか想像し、思いやることです」
カテゴリーは違うから単純比較はできない。しかし、もどかしさの正体は、おそらくこのあたりにあると思う。
私は常々、「文武両道」で東大野球部を捉えることに違和感を抱いてきた。そこには野球の技術の他に、彼らの高校生活、受験での成功体験に対するリスペクトを「込み込み」で取り上げているからだ。やはり、スポーツジャーナリズムである以上、野球のみで取り上げるべきなのではないか――。それが私の考えだった。
そして、「なぜ弱いか?」ということに真正面から向き合った論考を、私は寡聞にして知らなかった。その意味で、この本は東大野球部にとって「語られるべきだったもの」という気がする。
昨年、101歳で亡くなった「ニューヨーカー」の伝説の編集者にしてベースボールライターのロジャー・エンジェルは、2001年、同時多発テロ前のNYで、私にこう言った。
「ミスター・イクシマ、世の常として勝っている集団の話よりも、負けているチームの話の方が面白いものなんだよ」
今回も、その言葉に偽りはなかった。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。