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25年間ずっと最下位のナゾ…東大野球部はなぜ弱い?「“おまえ野球やめろ”は許されない」ヤクルト高津監督と東大野球部の“決定的な差”
posted2023/04/24 17:02
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Hideki Sugiyama
もどかしさ。
東京大学野球部を表現するなら、そうなる。
1974年から東京六大学野球を見続けてきての感想である。
今年春のリーグ戦、第2節の早稲田大学との試合を見ても、その感想は変わらなかった。
いい試合はする。得点機もある。
いい選手もいる。
特に1番打者の酒井捷(仙台二)は、第2戦を終えて14打数5安打、早稲田のエース加藤孝太郎(下妻一)から本塁打を放っている。彼の走る姿を見ていると運動能力はそこまで高いとは思われないが、打席での佇まいに迫力がある。他の東大の選手には見られない魅力を放っており、相手バッテリーが警戒しているのがハッキリしていた。
しかし、チームは弱い。
エラーが出ると必ず得点につながる。バント処理のミス、フライの落球、そして交錯。「負けに不思議の負けなし」、この言葉はそのまま東大野球部に当てはまる。
50季連続最下位=「目標の不一致」
では、もどかしさの正体はなにか?
「東大野球部には『野球脳』がない。」(文藝春秋)を読んで、溜飲が下がる思いがした。
この本は、2022年秋のリーグ戦を戦った4年生たちの証言――彼らの言葉は、読んでいる方が不安になるほどリアルである――を基に、東大野球部の構造的弱点を浮かび上がらせる。
2022年秋のリーグ戦は、慶応に1勝をあげたものの、1勝10敗1分で最下位。残念ながら、リーグ戦では1998年春から50季連続での最下位となってしまった。
あえて乱暴にまとめるなら、東大野球部のもどかしさの正体は、ターゲット、目標の不一致にある。
かつて中日で活躍し、落合博満が率いたドラゴンズを経営側から支えた井手峻監督は、教育機関の活動の一部だと考えて指導している。同じ力ならば、上級生を使うという姿勢だ。