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北京五輪“スーツ規定違反”騒動から1年…測定方法変更も違反は“倍増”、高梨沙羅は1月に“再違反”で取材に応えられず「やせちゃっていたのかな」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2023/02/10 11:01
昨年2月7日、混合団体で規定違反とされ失格となった高梨。引退を示唆するほどの強いダメージを受けたが、スーツ測定のその後の運用方法は…
スーツの体に対するサイズはむろんのこと、厚さや素材も規制がなされた。素材については数値を定め、それ以上に空気を通すものでなければいけないとされた。空気がスーツの中にたまらなければ揚力を抑えることができるからだ。
このようにスーツの開発と規制が繰り広げられた経緯がある。その事実が物語るように、選手の技術の巧拙はむろんのこと、スーツ(道具)は技術と並んで勝つための「両輪」と言ってよいくらい欠かせない、重要性を帯びた存在となっている現実がある。しのぎを削る中では、決しておろそかにできないからこそ、ルールが変わればそれに対応しつつより揚力を得られる、飛距離を伸ばせるスーツを、と「ぎりぎり」のラインを追求する。
扱うのは人間
また、「グレー」のゾーンに踏み込む選手がいるという指摘もときに出る。仰向けになる際にスーツが上部にずれる形にすることで、股下にゆとりがないように見せかけるなどの手法があるという。その指摘の内容はともかく、それもまた、ルールとのせめぎあいでぎりぎりの攻防があることをうかがわせる。
ここまでを踏まえた上で、あらためて北京五輪の混合団体を振り返れば、女子ばかりにスーツの規定違反が出たことを考えれば、ジャッジ側の運用に問題があったと考えてよい余地はある。
ただ、そこから出発した今シーズンも、根本的な解決には遠い。デジタルの力で測定することになっても扱うのは人間だ。計測の精度も人の手にかかっている以上、完ぺきではない。そもそもスーツの開発はこれからも続いていくし、規制をかいくぐろうという動きが皆無になるとも言いがたい。
測定にかけられる人数にも限界があり、また飛ぶ前後ですべての選手のスーツを測定するのもさまざまな点で現実的ではない。
例えば飛ぶ前に測定し、問題ないものはその印などを付けて認可済みとし、飛んだあとは問わないという方法も考えられるし、他にも考えられる方策はあるだろう。
どれが唯一の正解とも言えないが、選手が納得する形でルールあるいは運用を考えていく必要があるのではないか。そうでなければ北京のような出来事が起こらないとも限らないし、悲劇を防ぐためにも、そこが鍵となっていくように思える。
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