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「誰も挨拶にこない」ボヤく野村克也に江本孟紀が直言「そりゃ来まへんで、あんた嫌われてるのに」非難・称賛を越えた“本当のノムラ論” 

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岡野誠

岡野誠Makoto Okano

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posted2023/01/17 11:02

「誰も挨拶にこない」ボヤく野村克也に江本孟紀が直言「そりゃ来まへんで、あんた嫌われてるのに」非難・称賛を越えた“本当のノムラ論”<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

交友歴48年に及ぶエモやんが“ノムさんへの複雑な感情”をありのまま解き放つ

 江本は、南海時代に苦楽をともにした佐藤道郎や藤原満たちに「ノムさんがガックリしてるから挨拶来たれや」と声を掛けた。

「みんなが来たら、ちょっと機嫌直ったんですよ。そんなことをしているのに、俺は『江夏(豊)、門田(博光)、江本は三悪人』とか本にずっと書かれてね。微妙な関係ですよ」

 取材中、江本は野村克也を10の呼び方で表した。その回数を多い順に並べてみよう(※文中に全て記載したわけではないため、必ずしも対応するとは限らない)。

1位:12回 「野村」 
2位:9回 「野村さん」
3位タイ:7回 「ノムさん」「あの人」 
5位:6回 「自分」
6位タイ:2回 「あんた」「おっさん」 
8位:1回 「あなた」「親父」「ぐうたら男」

 基本的に「野村さん」「ノムさん」と呼びながら、客観的に監督としての業績を語る際には「あの人」を使う。そして、主に南海時代の話になると「野村」と言う。会社員が人前で同僚の名前を出すような感覚なのだろう。

 そもそも、人の感情は他人を「好き」「嫌い」と2択で分けられるほど、単純ではない。称賛できる部分もあれば、否定せざるを得ないところもある。江本の野村に対する、その複雑な思いの象徴として、呼び方が場面によって自然と変わった面もあるだろう。

 江本の感情が交錯したように、野村は自らの性格を素直に吐き出していた。強さ、弱さ、見栄、嫉妬……人間の隠しきれない本性を吐露する姿が、世間の共感を得た部分もあるはずだ。

墓参り中に…「絶対いま出てきてるよ」

「この前、何人かで墓参りに行ってきました。ボールの形をした墓にお母ちゃん(沙知代夫人)とふたりで眠ってる。また『おまえ、何しに来たんや』って言ってるやろうなあと。最後に写真撮ったら、急に煙が上がってきたんですよ。皆で『絶対いま出てきてるよ』と笑いましたね」

 詰まるところ、江本にとって野村克也とは、どういう存在なのか。

「死ぬまで僕の悪口を言ってました。南海で一人前にしてくれたし、尊敬していますけど、内心はこの野郎って思うじゃないですか。あんた、いつまで言ってるのって。まあでも、結構好きなんですよ、悪口言われるの。あんまり褒められてばかりでも嘘臭いし、正直じゃないですか。なんだかんだいって、憎めない親父ですよ」

 逝去から8カ月後、『南海ホークスメモリアルギャラリー』には野村克也のユニフォームが飾られた。その実現に尽力した人物こそ、江本孟紀その人だった。

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