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「誰も挨拶にこない」ボヤく野村克也に江本孟紀が直言「そりゃ来まへんで、あんた嫌われてるのに」非難・称賛を越えた“本当のノムラ論”
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2023/01/17 11:02
交友歴48年に及ぶエモやんが“ノムさんへの複雑な感情”をありのまま解き放つ
楽天監督時代、「マー君、神の子、不思議な子」など野村のコメントは毎日のようにスポーツニュースで取り上げられ、かつての月見草は向日葵のような人気者となった。
「試合前、番記者から『今日は仙台放送の解説で江本さんが来ますよ』と聞くと、『おおそうか』とずっとベンチで待ってるらしいですよ。ふんぞり返りながら、『まだ来んのか』とか言って。挨拶せなあかんし、しょうがないから行くと『何しに来たんや』って」
野村克也は「何もしないぐうたら男です」
江本が横に座ると、野村はボソボソとしゃべり始める。
「何を言うか、もうわかってる。『おい、おまえ。まさかウォーキングとかしてないやろな。あんなんしたら死ぬで』って。『鶴は千年、亀は万年。亀はジーッといるから長く生きるんだ』みたいなアホなこと言って。運動が嫌いだから、全て自分の都合のいいように話す。ゴルフもウォーキングもしない。何もしないぐうたら男ですから」
ある日、巨人のV9戦士である黒江透修がベンチに赴くと、野村は「クロちゃん、あんた運動してるのかい」と聞いた。
「黒江さんが『やってますよ。朝起きたらね、ウォーキングしてます』と言ったんですよ。そしたら、『あんた死ぬで』って。その割にしゃべってると、いつのまにか自分の足を浮かせてバタバタしている。全然ね、発言と行動が一致しないんですよ。あのおっさんの悪口なら、1年中しゃべっていられますよ(笑)」
独りベンチのノムさんに…「そりゃ挨拶来まへんで」
野村が亡くなる2年前、宮崎でジャイアンツとホークスのOB戦が行われた。長嶋茂雄、王貞治、金田正一、張本勲、広瀬叔功など錚々たる面々がサンマリンスタジアムに集まった。
「パッと見たら、ずっと独りでベンチに座っているわけ。昔一緒にプレーした人たちは、野村に一瞥も送らない。知らん顔してるの。みんな嫌いなんですよ、早い話が(笑)。なんか可哀想になって、ノムさんのところに行ったの。話してる途中、南海時代の選手たちをチラチラ見るわけですよ。ボソッと『おい、アイツらなんで俺に挨拶にこないんや』って呟いた。『そりゃ来まへんで、あんた嫌われてるのに』と言ったら、しおらしく『そうやなぁ』って(笑)」