Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「クロップさんは何を?」選手から学んだ“世界の日常”…森保一はなぜ自らを“監督係”と呼ぶのか「決断と責任を取ること、あとは営業ですね」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byWalnix
posted2023/01/01 14:42
4年半の戦いを振り返った森保一監督。日本サッカーでは初めての長期政権となる2026年W杯までの続投が決まった
――相手との噛み合わせに関して、特に意識を強めた時期はありましたか?
森保 やっぱり最終予選のときですね。チームの積み上げを考えれば最終予選でも相手を上回っていけると思っていたんですけど、相手もすごく対策してくるじゃないですか。しかも、準備期間が短い。「相手はこう来るから、こうする」という攻守のイメージをよりクリアにすることが大切なんだなと。選手たちからも「チームコンセプトのベースは分かりましたけど、この試合でのベースをください」という要望がすごくあったんです。
――それが相手分析であり、噛み合わせの部分ですね。
森保 もちろん、それまでもやっていたんです。テクニカルスタッフもしっかり分析してくれていましたから。でも、もっと詳しく、もっと細かく、もっと分かりやすくしてほしいと。そのときに感じたのは、普段、自チームではそれくらい細かく言われているんだろうなということ。こちらは伝えていたつもりだったけど、伝わってないなら、対応しないといけない。だから、W杯では先発メンバーも早く発表して、試合2日前には伝えていました。もちろん、相手の情報や練習での感触次第で変える可能性はあるけれど、現時点ではこのメンバーで行くよ、と。
見せる映像にも名前を載せて、「誰が、どうする」といったことをはっきりさせたほうが、コミュニケーションも活発になるんじゃないかと。メンバーを早く発表すると、サブに回った選手のモチベーションに影響を及ぼす可能性もありますけど、今回のチームは誰もが「自分がレギュラー」と「自分はサブ」とは思ってなくて、スタートから出る選手、後から出る選手と、役割をしっかり理解してくれていた。全員がしっかり準備できるグループだという信頼があったので、メンバーを早く発表して戦い方をクリアにしていこうと思ったんです。
欧州でプレーする選手から“学ぶ”
――W杯開幕前に話を聞かせてもらったとき、「自分には欧州でプレーした経験もなければ、指揮を執った経験もないから、今、欧州で彼らがやっていることを学ばないといけない。そうして彼らの経験やアイデア、考えを吸い上げてチーム作りに生かしてきたつもりだ」とおっしゃっていました。
森保 もちろん、聞いたことを全部やるわけではないです。所属クラブが違えば、やっていることも違うので。だから、それをいったん僕の中に納めさせてもらって、チームのためになりそうなことだけ取り入れる。そうやって選手たちにアウトプットするということはやってきました。
――南野拓実選手には、リバプールのスタイルについてヒアリングしたそうですね。
森保 試合を見ていれば起きている現象は分かるので、たぶんこういうことを言われて、このプレーに繋がっているんだろうな、と想像できますけど、実際に監督はどう働きかけているのか、どんな指導を受けているのか、拓実に限らずいろんな選手に聞いてきました。だから、楽しかったですよ。ヨーロッパのクラブチームを覗けているような感じがして(笑)。
――リバプールも覗ければ、アーセナルも、フランクフルトも覗けますもんね(笑)。
森保 そうですね(笑)。話はズレますけど、リバプールのクロップさんに拓実が最初に要求されたのは、ボールを奪うことだったそうです。でも、それは拓実だけではなく、フィルミーノ、サラー、マネといった他のFWの選手にも要求していると。もちろん、攻撃の選手としての資質や技術があるというのが前提だと思うんですけど、まず要求されたのがボールを奪うことだというのは深いなと。W杯はまさにそういう戦いでしたよね。欧州からJリーグに復帰した選手が言うのは、同じサッカーでも別競技だと。それが何を意味するのかというと、欧州ではサッカーの本質であるボールの奪い合いから始まる。
――やっぱり欧州と比べると、Jリーグは寄せが甘い、インテンシティが低い部分がありますよね。
森保 やっているとは思いますけど、より強度高くやっていく必要があると思います。W杯だけではなくて、海外に行って試合をすると、球際のところが重いんですよ。それだけ激しい中で外す能力、奪う能力を身に付けることがいかに大事かが、W杯の舞台にも詰まっていると感じましたね。