――代表チームのチーム作りとクラブチームのそれは、まったく違うものですよね。実際にどういう難しさがありましたか？

森保　やっぱり時間軸ですよ。最終予選では選手がバラバラに集まってきて、全員が揃うのは試合2日前。でも、実際には丸々2日は練習できないです。試合前日になっても全員のコンディションが整っていないことがほとんど。そうした状況で、どうやって全員の絵を合わせるか。所属クラブではそれぞれやっていることが違うので、代表に来たら代表のやり方を思い出してもらわないといけない。だから、必ずコンセプトの映像を見せるんですけど、選手たちも「またこれを見るのかよ」みたいな感じで（笑）。

　映像はアップデートしていますが、基本的なところは同じ部分もあるので。それを見てもらいながら、メンタルのスイッチを所属クラブから代表チームに切り替えてもらう。さらに相手の分析や噛み合わせを整理して試合に向けてのイメージを持ってもらう。でも、詰め込みすぎても伝わらないので、そこは簡単じゃないですね。クラブでも連戦のときには中2日、中3日で準備をしなければいけないですけど、クラブの場合は毎週の積み上げもありますし、プレシーズンには6週間くらいキャンプをしている。やっぱり全然違いますよね。

©︎Takuya Kaneko/JMPA

――クロアチア戦の翌日に「自分は監督係だった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。分業制だということですよね？

森保　そうですね。私の役割は決断することと責任を取ること、あとはメディアの前でしゃべったり、イベントに出たりする営業ですね（笑）。分かりやすく言うと、攻撃のオープンプレーは横内（昭展）さん、守備は斉藤（俊秀）コーチ、セットプレーの攻撃は上野（優作）コーチ、守備は下田（崇）コーチが2日間のトレーニングで選手たちにより深く浸透させられるように、ミーティングや練習の中で働きかけることを責任を持ってやってくれました。監督が全部やろうとすると、浅くなると思うんですよ。最終予選のときに、これを全部自分がやってたら選手たちがしっかりとした絵を持てないなって、すごく感じて。

――では、そうした分業制も最終予選の途中から？

森保　元々やってもらっていましたが、私からコーチ陣に対する要求がより厳しいものになったと思います。やり方はいろいろあると思うんですけど、僕はヘッドコーチタイプではなくてマネージャータイプなので。「チーム全体を見ながら、選手個々とコミュニケーションを取るので、練習内容やフィードバックはお願いします」とコーチ陣にも話していました。任せられる有能なコーチ陣ですから。なので、戦術面は全部コーチです（笑）。

「1カ月後、どこで、何をしているのか」

――クロアチア戦の翌日、「欧州へ勉強しに行くことも考えています」と口にされました。もうそんな時間はないのかもしれませんが、ヨーロッパに行けるとしたら、何をインプットしたいのか、何を見てきたいのでしょうか？

森保　一番は監督がどういう働きかけをしているのかを見たいですね。自分が選手を見て感じたことの答え合わせというか。もちろん、ヨーロッパは今、より戦術的に戦うようになっているので、練習を見せてもらってインプットしたいという気持ちもあります。いろいろと見て回るというより、どこかのクラブをじっくり見せてもらうのが理想ですね。あと、私はヨーロッパで生活したことがないので。選手たちは異国の地で孤独に戦っているわけですから、どれだけ厳しい状況で生活しているのか肌で感じたいという気持ちもあります。そうすれば、少しは同じ感覚で彼らと話せるようになるかなって。ただ、どうなるかは分からないです。監督業は請われれば、どこにでも行く職業なので、自分が1カ月後、どこで何をしているのか、まったく分かりません（笑）。

2026年W杯まで日本代表を指揮することを発表した森保一監督　©︎JIJI PRESS

※このインタビューは2022年12月中旬に行われたものです。

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