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スーパースター・ロッシがいないシーズンはやっぱり寂しかった…グランプリを変えた不世出のライダーの功績
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/12/17 11:01
最高峰クラス6回目のチャンピオンとなった2008年のロッシ。強く、明るいキャラクターで世界中のファンを虜にした
ロッシが引退したいま、良くも悪くもサーキットの「熱気」が冷めてしまったように感じる。スターの後継者たるマルケスは、怪我と再手術とマシンの不調でいい走りが出来ていない。2022年はロッシの弟子のフランチェスコ・バニャイアがタイトルを獲得したが、ロッシほどの求心力はなく、まだまだこれからの選手である。
ロッシというスーパースターがいて、スーパースターを打ち負かす強力なライバルたちがいた。そうした構図がMotoGPをここまで人気あるカテゴリーに育て上げた。MotoGPファンは、ロッシに続くスーパースターの出現を待っているのかも知れない。というよりも、いまだにロッシがいたころの熱気を懐かしんでいるのではないだろうか。
最強王者が輝きを失ったきっかけ
僕はデビューから引退までロッシの走りを見てきたが、彼が全盛時の走りを失ったのは、グランプリ通算9回目のタイトルを獲得した後の2010年にモトクロスのトレーニング中に右肩を痛め、さらにイタリアGPで右脚を骨折してからだと思う。
それでもロッシはタイトル獲得へ意欲的であり続け、2011年にドゥカティに移籍、2013年にはヤマハに復帰した。結果として、2009年を最後にタイトル獲得はならなかったし、その選択を揶揄する声がたくさんあるのは承知しているが、僕はロッシの行動は「期待に応える」ための努力と情熱の表れだったと思う。とにかく、チャレンジを惜しまないライダーだった。
ヤマハのあるスタッフは、ロッシの情熱と走りの勢いが急激に感じられなくなったのは、新型コロナに感染した20年シーズンからだと言っていた。確かに、優勝できるレベルの走りではないと感じることが増えて、「引退」という言葉が現実的になった。とはいえロッシは、あと1年か2年は確実に走れたと思う。新型コロナは、レース界からスーパースターを奪う原因のひとつになったのかもしれない。
最後にロッシが残した記録を添えておきたい。1996年に16歳で125ccクラスにデビューし、42歳を迎える2021年まで26年間で432戦を戦い、115勝(125cc/12勝、250cc/14勝、500cc・MotoGP/89勝)を含む235回の表彰台に立ち、タイトルを9回獲得した(125cc/1回、250cc/1回、500cc/1回、MotoGP/6回)。どれも偉大な記録である。
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