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<引退>「涙は僕のキャラじゃない」MotoGPを明るく照らし続けたスーパースター、バレンティーノ・ロッシのベストレースとは
posted2021/11/19 17:05
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
最終戦バレンシアGPが終わり、いま、僕はバレンシアから約800km離れたヘレスにいる。ここでいま、来季に向けての初テストが始まり、テストライダーを含めて26人のライダーが走っている。チームを移籍した者、Moto2クラスからMotoGPクラスにスイッチした者など、どのピットも新しいシーズンに向けて期待に満ちあふれている。しかし、数日前に行われた最終戦を最後に他のカテゴリーに移っていった者の姿は見えず、当然のように、バレンシアGPを最後に引退したバレンティーノ・ロッシもいない。
いつもいるはずのロッシがいない。というのはなんだか寂しく、そして不思議な感じがする。1996年にWGPデビューしてから26年。とりわけ、500ccにステップアップした2000年以降のロッシはグランプリ界の象徴であり、いつもパドックの中心にいたからだ。
大会になればピットに多くの著名人が訪れる。知らない人がいないだろう映画スターがグリットに立つことも珍しくはない。F1ドライバーはもちろんのこと、サッカー、テニス、自転車など、スポーツ選手たちとの交流も深く、引退レースとなったバレンシアGPには、サッカーのブラジル代表として活躍したロナウドが祝福に訪れた。まさにロッシは、MotoGP界のスーパースターだった。
ラストレースに詰めかけた今季最多の観客
そのロッシのラストレースとなったバレンシアGPは、このコロナ禍において初めて制限なしに観客を入れた。平時なら決勝日だけで10万人を超えるが、今年は決勝日に7万5000人、レースウィークを通して14万9000人が入場した。無観客開催ばかりのこの2シーズンにあって、もっとも多い観客数だった。
ロッシは今季4番目に良い10番手グリッドからスタートして、10位でフィニッシュ。予選を10位で終えたときに「いい走りが出来た。いまに見てろ」と冗談交じりで語り、決勝ではその言葉を実践し、「世界のトップ10で終われたよ」と喜んだ。
今季後半戦のスタートとなった第10戦スティリアGPで引退を表明してからのロッシは、テレビに映る機会がめっきり減った。予選では下位に沈み、決勝では序盤から最後尾に下がり、それからじりじりと追い上げてなんとかポイント圏内を目指す。引退を表明したライダーの走りとはこういうものなのだと、どこか納得させる走りだったが、バレンシアGPでは、元チャンピオンの意地を見る思いだった。