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スーパースター・ロッシがいないシーズンはやっぱり寂しかった…グランプリを変えた不世出のライダーの功績
posted2022/12/17 11:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
27年ぶりの、バレンティーノ・ロッシがグランプリにいないシーズンが終わった。
僕はこれまで多くのスター選手を見てきたが、今シーズンを振り返ると、スーパースターと呼べるのは、あらためてロッシだけだと思った。
スーパースターとは、ひとことで言えば「期待に応える」選手のことだと僕は思う。期待に応えるから人気が出る。デビューしたときのロッシはチャーミングな16歳だったが、その後はカッコイイ選手へと成長していった。まさにイタリアの英雄にして、モーターサイクルレースでもっとも成功したライダーのひとりであり、そして、もっとも注目された選手だった。
そのロッシの最後のレースとなった2021年のバレンシアGPは、コロナ禍になって初めて観客数の制限が解除され、10万人を超える観客がスタンドを埋めた。現役最後のレースを10位で終えたロッシの目に涙はなかった。明るいキャラクターでファンを喜ばせてきたライダーらしく、スタンドのファンと大勢の関係者に笑顔で応え、映像を通して引退を惜しむ世界中のレースファンに手を振った。
ロッシのいない2022年シーズンはコロナ禍による観客の制限はほぼなくなったが、観客数がコロナ禍前の水準に戻らないレースも多かった。その理由は、もちろんロッシがいないから。とりわけもっとも印象的だったのは、ロッシのファンがサーキットを埋め尽くしていたイタリアGPの舞台となるムジェロの観客数が、コロナ禍前の10万人前後から4万人台へ激減したことだった。イタリアGPそのものはシーズンを通してもっとも熱いレースとなっただけに、ロッシロスを痛感させる大会のひとつだった。
その一方で、どのサーキットでもスタンドはロッシのシンボルカラーである黄色のウエアを着たファンで埋め尽くされた。スタート前には黄色の発煙筒がたかれ、サーキットが黄色一色に染まる。サーキットの売店で一番大きなスペースを占めるのは、今年もロッシのグッズ売り場だった。
ロッシの人気を支えたのは、「期待に応える」速さと強さだけでなく、男臭かったレース界に新風を吹き込んだおちゃめで明るい性格だった。全盛を誇ったころは、レース後の趣向を凝らしたパフォーマンスで、さらにファンのハートを掴んだ。
コース上の戦いでは、イタリア人が好む「対決の構図」の中で、常にライバルと熱いバトルを繰り広げた。それをロッシファンが強烈に後押しするから、サーキットはロッシコールとライバルへのブーイングに包まれた。マックス・ビアッジ、セテ・ジベルナウ、ホルヘ・ロレンソ、ケーシー・ストーナー、マルク・マルケス……ロッシとチャンピオン争いを繰り広げたライバルたちは、イタリア大会では特に精神的に厳しい戦いを強いられたはずだ。