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ヤマハのエースが契約破棄する価値があった「アプリリアの躍進」と「日本メーカーの凋落」《来季MotoGPの日本メーカーは6台のみ!》
posted2022/11/30 11:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
過去2年、コロナ禍の中でヨーロッパ中心の変則的なスケジュールが続いたロードレース世界選手権だが、今年は3年ぶりに南米、アジア、オセアニア地域にも拡大し、シーズン最多の20戦が行われた。
タイトルを獲得したのはドゥカティのフランチェスコ・バニャイアで、ドゥカティとしては2007年のケーシー・ストーナー以来、2人目。そして、3年連続4回目のコンストラクターズタイトル、2007年、2021年に続き3回目のチームタイトルも獲得し、ドゥカティは2度目の3冠制覇を達成した。
今季はヤマハのファビオ・クアルタラロが2連覇をかけて最終戦まで孤軍奮闘したが、この数年はドゥカティを筆頭とするヨーロッパメーカーが表彰台争いの中心になっている。その中でもアプリリアの躍進は印象に残るものだった。
アプリリアは、ホンダ、ドゥカティ、KTMと同じV型4気筒エンジンを採用し、2015年にMotoGPクラスに復帰して8年目のシーズンを迎えた。2021年までは開発したワークスマシンをチーム・グレッシーニに委託していたが、今年からは完全なワークス体制での参戦となり、一気にリザルトが上昇した。第3戦アルゼンチンGPでは、アレイシ・エスパルガロが自身としてもチームとしても初めてMotoGPクラスで優勝、タイトル争いに加わってシーズンを4位で終えた。チームメイトのマーベリック・ビニャーレスとあわせると9回表彰台に上がり、コンストラクターズタイトルでも最下位を脱出して、6メーカー中、ドゥカティ、ヤマハに続く3番手へと浮上した。
アプリリアの急成長の理由
アプリリアが急成長を遂げた最大の理由は、2輪だけではなく4輪にまでエンジニアを求め、エンジン、車体、空力と急ピッチで開発を続けてきたところにある。エンジン開発やテスト日数の制限解除など、表彰台に立てないメーカーへの優遇処置を最大限に活用してのものだが、ライバルに肩を並べたいまは、その優遇処置が外れるまでになった。特にエアロダイナミクスの面では、これまで斬新なデザインでMotoGP界を牽引してきたドゥカティとともに新しいアイデアを次々に投入。ライバルメーカーが追随するまでになった。
アプリリアはドゥカティと同じイタリアのメーカーで、今年はふたつのイタリアメーカーとオーストリアのKTMが表彰台を独占することも珍しくなかった。
今年のシーズン始めに僕はこう書いた。
「日本のメーカーにとっては、これまでは『勝って当然』の戦いが続いてきたが、これからはそうも言っていられないような気がする。ヨーロッパのメーカーにとっては『日本のメーカーに勝つことが最大のPR』になった時代から、これからは『1番になる戦い』があたりまえになってきたからだ」
それがこれほどのスピードで現実となったことに、自分でも驚いている。