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トルシエ「私は明日、膝の手術をする」歩くのも困難な元日本代表監督が「多くのリスクを厭わなかった」とドイツ戦の森保監督を激賞!
posted2022/11/26 11:02
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Kaneko/JMPA
フィリップ・トルシエに電話をしたのは、スペインがコスタリカに7対0と大勝した直後だった。その3時間前、日本がドイツを2対1で破ったときの興奮状態はすでに落着き、受話器の向こうから聞こえるトルシエの声は穏やかで冷静だった。
逆に印象深かったのは、試合後の会見に現れた森保一・日本代表監督だった。記者たちの拍手に迎えられた森保は、いつもの冷静さこそ保っていたものの、目が少し潤んだその表情は、感極まっているのを必死に押し隠そうとしているように見えた。それだけの勝利だった。
前半はまったくいいところのなかった試合で、どうして日本はドイツを逆転できたのか。日本の勝利の要因は何であったのか。トルシエが分析する。
森保は多くのリスクを冒した
——試合は見ましたか?
トルシエ ああ、見た。
——信じられない結果になりました。
トルシエ 信じられないが、これがサッカーでもある。日本は勝利に値した。日本はドイツに対して、ゲームを支配しながら勝利を収めたのではない。ドイツのプレーを乱した。ドイツというマシンを狂わせ、彼らの自信を揺るがせた。マシンを破壊し、組織をバラバラにしてしまった。力関係で相手を上回ったからでも、ドイツよりも強かったからでもない。勝ったのは、相手を破壊したからだ。
後半の日本は、精密機械だったドイツのサッカーを見事なまでに粉砕した。ドイツは自信を失い、組織も破綻をきたした。前半とは異なり、ドイツは後退を余儀なくされパニックに陥った。
それは森保のコーチングがもたらしたものだ。彼は多くのリスクを冒した。伊東(純也)が右アウトサイド、三笘(薫)が左アウトサイドでプレーしたのもそうで、3バックのシステムではそれも可能であることは私たちもわかってはいた。私が2002年日韓W杯で小野伸二を左アウトサイドで起用したことや、中村俊輔もしばしば左アウトサイドに置いたことは君も覚えているだろう。3バックではそんな攻撃的オプションも可能で、森保もその利点をうまく活用した。
——とはいえ前半の日本はまったくいいところがなく、打開策もないように見えました。
トルシエ 前半はちょっとヨーロッパ風の試合内容だった。引いて守り、カウンターアタックを狙う。だが日本は引き過ぎたため、ドイツにボールを持たせ彼らの思うように攻撃を構築させた。たしかに組織は整備され、守備は強固になり守りながらゲームのイニシアチブをとることもできた。その点では自分たちの使命を冷静に遂行したが、ブロックの位置が低すぎた。だからカウンターアタックも、スピーディではあったが伊東と前田(大然)だけに限られた。