サウジはそれで救われたが、日本はサウジよりも良かった。より多くの攻撃オプションを見せてドイツゴールに迫った。いつもこんな風にプレーできるとは限らないが、それができたのは森保のコーチングが的確だったからであり、効果的だったからだ。リスクを冒すことを厭わず、そうでありながらチームはずっとバランスが取れていた。それは選手たちが、自分は何をやるべきかを完璧に心得ていたからであり、決してイチかバチかの戦略ではなかった。森保はプランAでゲームをスタートし、うまく行かないと見るや即座にプランBにシフトした。その変更は、あらかじめ彼の頭の中にあったものだ。他にもいくつかのプランを用意していたのは間違いない。

——森保のプランはそうかもしれませんが、選手たちには3バックはあまり馴染みがありませんでした。どちらかというと試合を終えるためのシステムで……。

トルシエ　そうだがその変更が最大の賭けだった。選手の集中力が劇的に高まり、プレーの強度が上がった。

後半から起用され、チームのバランス回復に貢献した冨安。次戦以降、ケガの状況が心配される　©Kiichi Matsumoto/JMPA

——また森保は、浅野や南野（拓実）、久保など代表でのパフォーマンスが落ちていた選手も信頼し続けました。それが結果をもたらしたともいえます。

トルシエ　日本にはそうしたことが必要だ。これまでも状況が厳しくなったときに、日本はいい結果を得ている。逆境のなかで日本は力を発揮する。日本には覚醒が必要だ。

——敗北でドイツが危機的な状況に陥りました。リーグ突破のために、次のスペイン戦が大一番になりました。

トルシエ　負けたらお終いだ。

コスタリカとどう戦うか

——しかし勝つと難しくなります。3チームが勝ち点6で並ぶ可能性が出てきます。

トルシエ　ドイツはそれを狙っている。コスタリカに関しては、スペイン戦を見る限りかなり弱い。だが侮ってはいけない。コスタリカも突破の可能性を残すためには、日本に絶対に勝たねばならない。日本にとって簡単ではないが、勝利を得るための武器が日本にはある。少なくとも負けない戦いはできる。

——コスタリカは日本戦に向けて、守備も強化してくるのではないでしょうか？

トルシエ　スペインに7失点を喫したのは大きなトラウマになったハズだ。回復は簡単ではない。それでも勝たねばならないから、攻撃的な戦い方を採用するだろう。そうなれば後方には大きなスペースができて、日本はそこを活用できる。スピード豊かな選手たちが、素早い攻撃を仕掛けられる。日本にも勝利が必要だ。スペインと戦う前に、勝ち点6を得ておく必要があるからだ。

【次ページ】　ドイツを分断した日本の戦略