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「金太郎あめ」。誰が出てもハードワークを厭わない車いすラグビー日本代表が見据える世界一への挑戦

posted2024/08/06 11:00

 
「金太郎あめ」。誰が出てもハードワークを厭わない車いすラグビー日本代表が見据える世界一への挑戦<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

究極の目標は「世界一のプレーヤーになること」と語る次世代エース橋本勝也

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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Kiichi Matsumoto

 リオ2016パラリンピック、東京2020パラリンピックで2大会連続銅メダルを獲得した車いすラグビー日本代表。パリ2024パラリンピックで目指すのは悲願の金メダルだ。近年は実力に磨きをかけており、今年4月に英国で開催された2024 Wheelchair Rugby Quad Nations、6月にカナダで行われたCANADA CUP 2024でいずれも優勝を飾っている。選手たちは今、自信をさらに深めながら、4年に一度の大舞台に向けて汗を流している。

 車いす同士の激しいタックルは迫力満点。ハイポインター(障がいの軽いクラス)によるスピード感あふれる攻防はもちろん、ローポインターが理詰めで相手の進路を消す中でじわりじわりとトライに迫るデザインプレーが見る者を感嘆させる。男性に交じって女性も同じチームでプレーする。

 車いすラグビーは四肢まひなど、比較的重い障がいのある人もプレーできる競技として考案されたチーム球技だ。バスケットボール用のコート(28m×15m)で4人が力を合わせ、バレーボール(5号球)をもとに作られた専用球を運び、トライラインを越えると1点。この点数を競う。日本代表は世界屈指の強豪チームだ。

岸監督が表現する「金太郎あめ」チームとは?

 7月8日に行われた日本代表チームの会見。岸光太郎監督は「山頂を目指し、一歩一歩足を出してしっかり、全員で登っていく。そうすれば良い結果に結びつくと思う」と独特の表現で抱負を述べた。

 岸監督は、昨年6~7月の「三井不動産 2023 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ」を最後に退任したケビン・オアー前監督の後任として日本代表を指揮し、前監督によって培われた戦術的方向性を継続しながら“山頂に立てるチームづくり”を行ってきた。

 日本代表が目指す方向性とは、8分間×4ピリオドの試合時間の中で選手が目まぐるしくローテーションしつつ、誰が出てもつねに一定以上の強度で相手にプレッシャーを掛け続けられるチームづくり。岸監督は「金太郎あめ」とも表現する。

 代表メンバーは障がいの重い0.5のクラスから比較的軽い3.5のクラスまでの12人。6大会連続出場となる島川慎一(3.0)、4大会連続の池崎大輔(3.0)らを含め、12人中11人が東京2020パラリンピックを経験している。ただ一人の初出場選手は23歳の草場龍治(1.0)。多士済々の顔ぶれを、3大会連続出場となる池透暢キャプテンが束ねる。

 池は「今は、自分自身もチームも最高の状態。ここに立つことのできなかったメンバーの分も力に変えてパリに臨みたい」と力強く語っている。

悔しさを知る池崎大輔。あえて淡々とした口調で語る心の中に期する世界一への強い思い

 充実の顔ぶれの中で「今のチームは、間違いなく世界一になれる強さを持っている」と胸を張るのは、パリ2024パラリンピックが4大会目となる池崎だ。初出場だったロンドン2012パラリンピックでは4位。以後、リオ2016パラリンピックと東京2020パラリンピックで2大会連続銅メダルに貢献してきたハイポインターが見つめるのはもちろん金メダルだ。

「今回のパリ大会は間違いなく目指しているところに行けるのではないかと僕は思っている」と意気込みを示す。

 ただ、会見の席では「先日、ある方からメッセージが届きました」と切り出してこう語った。

「アスリートは心技体が重要。今の日本チームの技と体は間違いなく世界トップクラスだ。でも、一番コントロールするのが難しいのは心。思いが強すぎても良くない。冷静に自分たちをコントロールしながらもやってきたことをコートで出す。そうすれば、メダルが自分たちに寄ってくる。やってきたことに自信を持って、冷静にやれ」

 自身の思いを重ねるように、蕩々とメッセージを紹介した。そして、「確かに、そうだなと思いました」としみじみ言った。

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