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投資詐欺、愛馬の死…今年ダービー出走、元タカラジェンヌの牧場オーナーが信じ続けた“女の直感”「いつも最後は馬に助けられるんです」 

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伊藤秀倫

伊藤秀倫Hidenori Ito

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/12/25 17:02

投資詐欺、愛馬の死…今年ダービー出走、元タカラジェンヌの牧場オーナーが信じ続けた“女の直感”「いつも最後は馬に助けられるんです」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

宝塚歌劇団の花組トップ娘役も務めた岩崎美由紀さん。牧場の代表となり、時に痛い目に遭いながらも、その直感によってダービーへの道をひらいた

「刑事さんでも絶対にダマされますから」

 牧場を整理し、家を売却し、さらに美由紀さんは自分の貯金まで牧場の立て直しに注ぎ込んだ。その甲斐あって牧場の経営は徐々に軌道に乗り始めるが、そうなってくると寄ってくるタイプの人間がいる。

「やっぱり、何が一番ネックかというと、手元に資金がないということなんですね。詐欺の人ってそういうこちらの状況を見透かして、本当に上手に話を持ち掛けてくるんです。いわゆる投資詐欺ですよね。それで私もよせばいいのに先にお金出しちゃったんです。お金ないのに(笑)」

 気付いたときには後の祭りだった。

「警察にいって、これこれこういう風に騙されました、と説明しても、刑事さんは『うーん、それだと逮捕は難しいですねえ』って。詐欺の人って本当にうまいんですよね。捕まらないように上手にやる。だから私、刑事さんに言ったんです。『刑事さんでも絶対にダマされますから』って(笑)」

馬がご褒美くれているんだな

 寄ってくるのは詐欺師ばかりではない。いわゆる牧場関係者との間でも、トラブルに見舞われた。

「スタッフにはいつも『大丈夫ですか? 本当に大丈夫ですか?』って心配されるんですが、私はもう人を結構信じるようにしているので。例えば、ウチの馬を買ってくださるというので、契約書を送って、その馬をセリにも出さずにおいておいたのに、結局キャンセルになってしまった、とか。逆に『売る』なんて一言もいってないのに、なぜかこの牧場が別の人に売られそうになっていたり……。本当にいろんなことがあるんですけど、いつも最後は馬に助けられるんです」

 牧場を継いでから2年後の2017年、美由紀さんは牧場を「ヴェルサイユファーム」と改名、その名が宝塚の代名詞「ベルサイユのばら」にちなんでいることは言うまでもない。

 そしてこの年、このヴェルサイユファームで生まれた2頭の馬、ライジングリーズンとミスパンテールが揃って桜花賞に出走した。3年前に生まれた7000頭以上のサラブレッドの中から、この年、桜花賞の舞台に挑む権利を得たのはわずか17頭。そのうち2頭が毎年の生産頭数が10頭に満たないヴェルサイユファームで生まれたという事実は、奇跡的快挙といっていいが、当の美由紀さんはというと――。

「それがどんなにスゴいことかというのをまだよくわかっていなかったんです。取材に来られた方に『こんな小さな牧場でクラシックに2頭出るってスゴいですね』と言われて、初めて実感したくらいで。でもそう聞いて、いろいろあったけど頑張ってきてよかった、馬がご褒美くれているんだな、と思いました」

【次ページ】 義勝さんの遺した言葉と、1頭の繁殖牝馬

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