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馬大好きの牧場オーナーなのに「馬アレルギーなんです…」“Yogibo&引退馬”牧場の“産みの親”岩崎美由紀さんが明かす「はじまりの1頭」
posted2022/12/25 17:03
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph by
Kiichi Matsumoto
「結局さ、馬は『経済動物』だからね」
それは従来の競馬界の常識からすると、まず実現不可能な「夢物語」に過ぎなかった。
「引退馬がゆっくりと余生を過ごせる場所を作りたい」
だが、息子の崇文さんから打ち明けられたそのアイデアは、まさに美由紀さんが牧場の仕事に関わり始めてからずっと考えていたことでもあった。
「息子は昔から乗馬をしていましたから、1頭1頭の馬への思い入れがやっぱり強いんです。私自身も人生を馬と過ごすようになって、みんなこの牧場で産まれて、スタッフが手塩にかけて育ててきたのも見てますから、どうしても情が移りますよね。だから例えばウチで産まれた子たちが現役を終えてから、ちゃんと帰って来れる場所が欲しいと思っていたんです」
現実には年間6300頭ほどの引退した競走馬のうち、6割近い約3700頭が乗馬にも繁殖馬にもなれずに「行方がわからなくなった」とされている。つまり「食肉用」としての運命を辿っているのである。「引退馬のための牧場」もないわけではないが、まだまだ数が少なく、美由紀さんらのアイデアを聞いた馬主や周辺の牧場関係者の反応は、一様に冷ややかなものだった。曰く、「結局さ、馬は『経済動物』だからね」。
「もう大反対されましたね。要は引退馬はお金を生まないから、ビジネスとして成り立たない、と。確かに牧場の維持費ってすごくかかるんですね。ウチみたいな規模の牧場でも、人件費や飼料代もろもろの維持費が月で400万円ぐらいかかる。それを産まれた仔馬を売却した代金や預託料で何とかやりくりしている状況ですから、そこへお金を生み出してはくれない引退馬を新たに受け入れる余裕があるのかと言われれば、ものすごく厳しいのは確かです。でも息子は、どうすればビジネスとして成り立つかを試行錯誤しながら考えていたので、それはすごくいいな、と思っていました」