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投資詐欺、愛馬の死…今年ダービー出走、元タカラジェンヌの牧場オーナーが信じ続けた“女の直感”「いつも最後は馬に助けられるんです」
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/12/25 17:02
宝塚歌劇団の花組トップ娘役も務めた岩崎美由紀さん。牧場の代表となり、時に痛い目に遭いながらも、その直感によってダービーへの道をひらいた
ダービー出走馬を産んだ種付けは「私の直感です(笑)」
それだけに義勝さんの「置き土産」ともいえる血統を唯一伝えるマオリオは、ますます大事な存在となった。そのマオリオに何を付けるべきか――美由紀さんが選んだのが、2018年に種牡馬入りしたばかりのアメリカンペイトリオットだった。
「やっぱりその子どもが高く売れそうな人気のある種牡馬の種付け料って高いんです。だけどアメリカンペイトリオットはまだ種牡馬になったばかりで実力が未知数だったので、そこまで高くはなかった。あとはもう私の直感ですね」
こうして生まれてきたのがビーアストニッシド(英語で「驚かされる(be astonished)」の意)だった。牧場時代のビーアストニッシドは決して目立つ馬ではなく、クラシック戦線で活躍する姿は想像もできなかったという。だがデビュー2戦目で初勝利を上げると、京都2歳S(GⅢ)で2着に食い込み、3歳になると皐月賞トライアルのスプリングS(GⅡ)を制して、クラシック三冠(皐月賞、日本ダービー、菊花賞)にもすべて出走した。その名の通り、美由紀さんを始めとする牧場関係者を驚かせる活躍ぶりだ。
ダービーで感じた宝塚との共通点「ここには夢があるんだな」
「とくにダービーは私にとっても初めての挑戦でしたが、やっぱり他の大きいレースとは雰囲気が全然違いましたね。やっぱり競馬界にとって一番のお祭りですから、お客さんの手拍子や熱気がスゴかったです。宝塚と同じで、舞台の上でお客さんの拍手を浴びると、どんな辛い思いをしてもすべて忘れられる。ここには夢があるんだな、と。そういう舞台にビー君(ビーアストニッシドの愛称)が連れてきてくれたわけで、私は本当に幸せ者だな、と感じています」
すべては馬のために――その原点に立ち返ったとき、美由紀さんと崇文さんの頭の中で、競馬界の常識を覆す「新たなプロジェクト」が形になり始めた。
<#3に続く>