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投資詐欺、愛馬の死…今年ダービー出走、元タカラジェンヌの牧場オーナーが信じ続けた“女の直感”「いつも最後は馬に助けられるんです」
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/12/25 17:02
宝塚歌劇団の花組トップ娘役も務めた岩崎美由紀さん。牧場の代表となり、時に痛い目に遭いながらも、その直感によってダービーへの道をひらいた
義勝さんの遺した言葉と、1頭の繁殖牝馬
ヴェルサイユファームのような規模の牧場にとってもっとも大きな収入となるのは、やはり生産馬をセリなどで売却した利益ということになる。従って、毎年の種付けは牧場の経営状況に直結する最も重要なイベントである。どの牝馬にどの種牡馬を付けるかについては知人の血統評論家のアドバイスに従いつつ、「あとは私の直感です」と美由紀さんは笑う。その直感がズバリ的中した1頭が、今年の牡馬クラシック三冠にすべて出走したビーアストニッシド(父・アメリカンペイトリオット/母・マオリオ)に他ならない。
ビーアストニッシドの母、マオリオは美由紀さんにとって、特別な馬だ。
「マオリオの母のジョウノファミリーは優秀な繁殖牝馬で、その子たちがみんなよく走ったんですね。で、マオリオは私が牧場を継いだとき、1頭だけ残っていたんですけど、これはきっと主人が走らせるつもりで残したんだろう、と。だからこのマオリオは絶対に繁殖に残そうと思いました」
実は、美由紀さんの記憶の中に、義勝さんが遺したこんな言葉が強く刻まれていた。
「サラブレッドというのは五代血統というのが本当に大切なんだよ」
ジョウノファミリーの父は、04年のダービーを制した名馬キングカメハメハであり、まさに義勝さんの言う五代血統が保証されていた。
「ですから、『そろそろ血を入れ替えた方がいい』と助言を下さる方もいたんですけど、私としては、この牝系を絶対に残していきたかったんです。ところが、ジョウノファミリーは出産時の事故で親子ともども亡くなってしまって……このときは本当に落ちこみました。こんなに頑張っているのに、なんでこんな辛い思いをさせるんですか、と神様に文句言いましたね」