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〈将棋〉A級順位戦マスク不着用問題を整理する… ただ「佐藤天彦九段が藤井聡太竜王に勝利」など、盤上の戦いにこそ注目を 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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posted2022/11/14 11:00

〈将棋〉A級順位戦マスク不着用問題を整理する… ただ「佐藤天彦九段が藤井聡太竜王に勝利」など、盤上の戦いにこそ注目を<Number Web> photograph by Kyodo News

マスク不着用の件で注目が集まってしまった佐藤天彦九段だが、直後の棋王戦本戦トーナメント準決勝では藤井聡太竜王に勝利している

 私こと田丸九段は後日、ユーチューブで配信された23時以降の対局室の光景を見たので、ありのまま伝える。

 永瀬王座と佐藤九段は対局中、マスクをずっと着用していた。しかし23時頃、佐藤は飲み物をとるためにマスクを片耳にかけると、以降はマスクを外したまま30分ほど考え込んでいた。

 一方の永瀬は、佐藤のマスク不着用をどのように思っていたのだろうか……。画像を見るかぎりは、不快な様子は見受けられなかったが、マスクの着用・不着用の不公平感を持っていたと想像できる。

 永瀬にとって、佐藤は4歳年長で棋士として3年先輩だが、ある時期は研究相手という関係でもあった。対局中は言いづらいが、規定に則ったことなので、「佐藤さん、規定ですからマスクをつけてください」とお願いすれば、佐藤は「あっ、そうでした。すっかり忘れていました。大変に申し訳ありません」と非を認め、マスクを着用したと思われる。

過去にも“相手の対局者への異議”はあった

 公式戦の対局で、対局者が相手の対局者に対して何か異議を唱えた例は、稀だが実際にあった。

 2007年の名人戦第1局の1日目。森内俊之名人が挑戦者の郷田真隆九段に対して、「自分の手番のときに扇子の音を立てるのは控えてほしい」と、じかに要求したことがあった。扇子を開閉する音が気になっていたようだ。郷田はいったん了承したが、扇子の音は常識の範囲内という認識があり、納得がいかない様子だった。

 そして、立会人の棋士の判断で対局を中断する異例の事態となった。主催者、両対局者、立会人で協議した結果、郷田は森内の手番のときに扇子の音に配慮する、ということで決着した。勝負では対等の立場であることが大事だ。

 順位戦の一斉対局のような日は、立会人は必ずいる。永瀬-佐藤戦の対局日は、対局が少なくて大半が夕方の頃に終わることから、立会人はいなかった。立会人がいたら、永瀬は立会人を通して佐藤にマスク着用を伝えただろう。

盤面に集中するあまり…

 さて、永瀬-佐藤戦の23時以降の対局室の光景に戻る。

 ユーチューブのコメント欄には、佐藤のマスク不着用について、「無意識でマスクを外しているみたい。誰か教えてあげて」「対局中にマスクを外すと、反則負けになるんじゃないか」など、佐藤のことを心配する投稿が相次いだ。

 永瀬は自分の手番のとき、30分ほどの間に7回も席を立った。残り時間はまだ余裕があったとはいえ、終盤の局面では異例の動きだった。「高雄」の対局室を出ると正面にトイレがあるが、入らずに左側に行った。その先には、取材陣が控える記者室がある。

【次ページ】 対応する側は“就寝間際の緊急案件”だった

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