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〈将棋〉A級順位戦マスク不着用問題を整理する… ただ「佐藤天彦九段が藤井聡太竜王に勝利」など、盤上の戦いにこそ注目を
posted2022/11/14 11:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Kyodo News
勝負への厳しい姿勢から「軍曹」の異名がある永瀬拓矢王座(30)と、元名人で優雅な雰囲気から「貴族」の異名がある佐藤天彦九段(34)は、10月28日にA級順位戦で対戦した。激闘が繰り広げられていた深夜、佐藤九段がマスクを外して考え込むと、ネット上は騒然となった。日本将棋連盟が2月に定めた臨時対局規定では、反則負けに該当するからだ。そして、それは現実のものとなった……。田丸昇九段が当日の状況と関連する事情を説明する。
2022年2月からは罰則をともなう「義務」となった
日本将棋連盟は2020年の春に新型コロナ感染防止策として、公式戦の対局者(観戦記者、記録係らの関係者も含む)にマスクの着用を要請した。
しかし「マスクはコロナに効かない」「対局中は話さないので飛沫は飛ばない」などの理由で、マスクを着用しない棋士がいた。連盟の常務会は説得したが、聞き入れてくれなかった。
そこで連盟は、感染リスクに不安を覚える棋士たちの声に配慮して、2022年2月に「臨時対局規定」を定めた。その主旨は次のとおり。
《公式戦で対局者は、一時的な場合(食事をする、飲み物をとる、周りに人がいない、または2メートル以上離れている)を除き、マスク(原則として不織布)を着用しなければならない。健康上のやむをえない理由がある場合、事前に届け出て常務会の承認を得る。規定に反したときは、反則負けとする。その判定は立会人が行う。立会人がいない対局では、立会人の任を代行する者が行う》
2020年のときは「お願い」だったが、2022年2月からは罰則をともなう「義務」となったのだ。
ちなみに囲碁団体の日本棋院では、マスクを着用しない対局者に対して立会人が警告を発し、従わない場合は反則負けにする決まりが制定されていた。つまり、イエローカードを経てレッドカードが出る。
2022年2月以降、マスク不要論を主張する棋士はいたが、対局ではマスクを着用した。マスクに関するトラブルはこれまで起きてなかった。
2人は一時期研究相手という関係でもあった
2022年10月28日、永瀬拓矢王座と佐藤天彦九段のA級順位戦の対局は、東京の将棋会館で行われた。ともに1勝2敗の成績で、敗れた方はA級降級の危険が生じる。
対局は朝の10時から始まり、流行している角換わり腰掛け銀の戦型となった。そして、激闘が繰り広げられて深夜の23時に至った。