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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「おい、今の見たか?」名将が絶句したオリックスの主砲・吉田正尚18歳の弾道 青学大時代から温め続けたメジャーへの思いとは
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/11/07 11:02
劇的すぎるサヨナラ弾を放った吉田正尚は中嶋監督と熱い抱擁。この一撃がシリーズの流れを完全に変えた
何より驚いたのは、そのヘッドスピードの速さだった。プロ野球で一軍の主力打者のヘッドスピードは150㎞/hを超えると言われるが、吉田は大学入学時点ですでに148㎞/hもあった。1年生から4番に座っていた敦賀気比高では通算52本塁打。左打者ながら、当時から左投手を全く苦にせず打ち込んでいたのも魅力だった。
「想像を絶するほど……」誰もが目を疑った弾道
大学入学後、当時の河原井監督は春のリーグ戦開幕からいきなり吉田を「DH」で起用し、5番や6番を任せた。忘れられない一撃がある。
「おい、今の見たか? 何なんだ……」
思わずそう口にしていた。
「神宮で右中間にライナーを打ったんです。これは(外野手の間を)抜けたな、と思ったら、そのままスタンド中段に入っていた。呆然としましたよ。打った瞬間、だいたい打球があそこに落ちるというのは分かるものなんですが、想像を絶するほど打球が伸びた。センターの選手がライナーを捕ろうと前に出てきたら、それがホームランになってしまった、という感じの打球なんです。これは決して大袈裟じゃない。大谷翔平もそういう球を打つらしいけど、正尚の打球にも同じような伸びがある。あれには本当に驚きました」
その試合後、コーチや顔を合わせたOBに「あんなの見たことあるか?」と尋ねてみた。皆揃って首を振り、こう答えた。
「野球をやっていて初めて見ましたよ。あれは凄い」
1年生ながら春、秋ともに東都リーグのDH部門で「ベストナイン」に選出。2年生からは外野手として出場し、のちにオリックスでチームメートになる2学年上の杉本と共に主軸を担うようになった。早くから注目を浴びたが、意外にもプロスカウトの評価は二分されていたという。この頃、河原井氏は教え子で当時まだ現役だった小久保と井口に電話をかけている。
「“面白い選手が入ってきたぞ。ちょっと見に来いよ”と言ったんです。でも身長が173㎝で右投げ左打ち、足の速さは普通、肩の強さも普通、と聞くと、“プロ野球の二軍にはそういう外野手は腐るほどいるんですよ”ってね。プロの評価ってのはなかなか難しい。こんなにバットを振れる選手はいない、といくら言っても、体がそこまで大きくなくて足や肩が普通なら魅力はない、と捉えた球団もあったと思います」