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豚の頭が飛んだフィーゴへの愛憎…“クラシコの異常な喧騒”はもう戻らないのか? 倉敷アナ「かつての物語的な面白みが」
posted2022/10/16 17:03
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Takuya Sugiyama
10万人に近い群衆から、ありったけの憎悪の言葉をぶつけられる気分とは、いったいどういうものだろう。フットボールの世界に限れば、それを知る者はたった1人しかいない。
2000年10月21日、バルセロナの本拠地カンプ・ノウに、見慣れない白いユニフォームをまとって降り立ったルイス・フィーゴは、殺意のこもった呪詛のようなブーイングを一身に浴びていた。
この年の夏、レアル・マドリーの新会長に就任したフロレンティーノ・ペレスは、「毎年1人はビッグネームを獲得する」と宣言し、その手始めとして会長選の公約に掲げていたフィーゴの強奪を実現する。移籍金は、当時の史上最高額となる6000万ユーロ(約72億円)。宿敵にキャプテンまで務めたチームの顔を引き抜かれたクレ(バルサのサポーター)は、その怒りの矛先をペレスではなく、カネで魂を売った“裏切り者”へと向けた。
経営する日本料理店が襲撃、燃やされたユニフォーム
フィーゴがバルセロナ市内で経営していた日本料理店が襲撃され、青とエンジの7番のユニフォームが焼かれる。そして、直接断罪する機会を待ちわびていたクレを煽るように、地元テレビ局は移籍後初のクラシコに合わせて、「フィーゴ批判横断幕」のコンクールまで開催した。
主催者側の思惑通り、カンプ・ノウのスタンドはさながら高校の文化祭のように、意趣を凝らした展示物で埋め尽くされた。当時のスペイン通貨であるペセタに引っ掛けた「ペセテーロ(守銭奴)」、聖書の世界における裏切り者の代名詞「ユダ」という言葉を使った様々な横断幕が掲げられ、さらに金の亡者を揶揄する大量のニセ紙幣が夜空に舞った。