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豚の頭が飛んだフィーゴへの愛憎…“クラシコの異常な喧騒”はもう戻らないのか? 倉敷アナ「かつての物語的な面白みが」
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/10/16 17:03
2000年夏にバルセロナから宿敵レアル・マドリーに電撃移籍したルイス・フィーゴ。当時史上最高額の移籍とあって“裏切り者”のレッテルを貼られた
ピッチに足を踏み入れたフィーゴは、大音量のブーイングに耳を塞ぐポーズを取り、一瞬苦笑いを浮かべたが、それがまた大観衆の怒りを増幅させる。ボールを持てば、言うまでもない。ありとあらゆる罵詈雑言が、「白の10番」めがけて矢のように放たれた。
この試合を実況したアナウンサーの倉敷保雄さんは、当時を振り返ってこう話している。
「古代ローマのコロッセウムって、きっとこういう雰囲気だったんだろうなって。クラシコの背景には、フランコ独裁政権時代からの中央政府(マドリード)対カタルーニャ(バルセロナ)という対立の図式があるんですが、そこに“裏切り”という要素が加わると、人はここまで憎しみの狂気に駆られるんだって実感しましたね」
“豚の頭”が投げ込まれたのは2年後のこと
勘違いされている方もいるかもしれないが、有名な豚の頭がピッチに投げ込まれたのは、バルサがルイス・エンリケとシモンのゴールで勝利し、クレの溜飲を下げたこの試合ではない。それは02年11月23日、フィーゴの怪我もあって、約2年の時を経て再び迎えたカンプ・ノウでのクラシコでのことだった。
もちろん、第1ラウンドでも様々なものが投げ込まれたが、2年後の再戦がその比でなかったのは、無謀にもフィーゴ自らがCKを蹴ったからだ。まさに格好のターゲットである。コーナーポストで棒立ちになったボクサーにパンチを浴びせるように、ライターやペットボトル、ウイスキーの瓶、コイン、古い携帯電話、ゴルフボール……固形物と呼べるすべてのものが、憎きキッカーめがけて投げつけられた。
一説によれば、本来入場ゲートで外されるはずのペットボトルのキャップがそのままだったのは、セキュリティの人間があえて見過ごしたからだとも言われている。なぜなら、キャップをしたままのほうが飛距離が出るからだ。
キックの邪魔になるとフィーゴが散乱したゴミを拾ってピッチの外に投げれば、それがまたわざとらしいと癪に障り、バルサのカルレス・プジョルが落ち着くようジェスチャーで訴えても、一向に騒ぎは収まらない。結局、安全上の問題からおよそ10分間、試合は中断されたが、今考えれば没収試合にならなかったのが不思議なくらいだ(試合はスコアレスドローで終わった)。