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日ハム7位指名の宮台康平以来、東大野球部から5年ぶり“プロ志望届”…ドラフト指名の可能性は? 記者の本音評価「ああ、もったいない…」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/01 17:00
5年ぶりに東大からプロ志望届を出した、井澤駿介投手(4年・180cm84kg・右投右打、写真左)と阿久津怜生外野手(4年・172cm77kg・右投左打)
いつもの2番打者が「6番」だったので、調子落ちかな……と思ったら、いやいやとんでもない。実戦のバッティングは見どころ十分だったように思う。
打席で向き合った慶大・増居投手は、持ち味のコントロールで140キロ前半の速球とスライダー、チェンジアップを両サイドにピシピシきめて、快調に飛ばす。
最初の打席。無死一塁で、その初球をパンチショット風の独特の打ち方で三遊間を抜いて、チャンスを広げる。
そして、第2打席だ。
同じ増居投手から、ライトポール際にライナーで放り込んだから驚いた。
左腕の内角寄りの速球を、左打者が引っ張って快打にできる……これは間違いなく、高難度のワザである。しかもファールにせずに、真っすぐに100m飛ばせるのは、真っ当なスイング軌道を持ち合わせている証拠だ。
上体をかがめて構える「クラウチングスタイル」。その上体を一気に起こす力でスイングするメカニズムにも、この選手のオリジナリティが感じられて、なんとも魅力的だ。
こう構えなくてはいけない。こう振らなくてはいけない。そんな「典型」にとらわれることのない伸びやかさ。彼のバッティングを見ていると、野球はやっぱりスポーツなんだと思い出させてくれるようだ。聞けば、2年生の途中までは「アメリカンフットボール部」で活躍していたそうだ。
「ああ、もったいない」6秒1の俊足なのに…
2打席とも、ファーストストライクをジャストミートできている阿久津玲生だ。その高いバッティング技術に勝負度胸……かつてのプロ野球には、チームに1人はいた「代打の切り札」としての資質あり。フッと、そんな妄想が湧く。
ただ、本当にプロ志望だったら、もっとどん欲にアピールしてもいいだろう。もったいないなぁ……と思う。
試合前のキャッチボール。ネット裏に背番号を見せて投げている列に「背番号6」がいない。おそらく反対側の列にいるのだろうが、それでは彼の「肩」がわからない。
ノックが始まって、外野手の集団がフェンスに向かって走っていく。50m6秒1なら「足」には自信があるはず。ならばなぜ、その先頭をきって突っ走って、自慢の快足を見せつけないのか。ああ、もったいない。
投手は、先発して完投でもすれば、グラウンドで1時間以上そのパフォーマンスを見せつけられるが、野手の「露出時間」は、打つ、守る、走る……全部たしてもせいぜい数分。
試合前の練習から見てもらわないで、いったいどうする!
この日まで、19打数8安打4打点(2本塁打)、打率.421(9月27日までの成績)。
4盗塁は、飯森太慈外野手(2年・163cm61kg・右投左打・佼成学園高)に次いで、リーグ戦2位タイ。野手で、これだけ才能と成績でキラキラ光る野手が、東大から現れたのは、ちょっと記憶にない(過去に東大からは6名のプロ野球選手が誕生しているが、ドラフトで指名された野手はいない)。
「僕ら、神宮では負けて卒業するんですけど…」
4年生の投手・井澤駿介に外野手・阿久津玲生。東大野球部は、決して彼らだけじゃない。ひとつ学年が下の選手たちも面白い。