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「娘には“ボロボロの1年生”って言われてます」元バレー代表キャプテン荒木絵里香(38)は早稲田の大学院で何を学ぶ?〈引退から1年〉 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/08/23 11:01

「娘には“ボロボロの1年生”って言われてます」元バレー代表キャプテン荒木絵里香(38)は早稲田の大学院で何を学ぶ?〈引退から1年〉<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

現役引退後、早稲田大大学院に進んだ荒木絵里香。研究テーマはもちろん「ブロック」だ

 荒木の研究テーマは「ブロック」。ミドルブロッカーとして活躍した荒木は、Vリーグで8度もブロック賞を受賞した実績が物語るように、日本屈指のブロックのスペシャリストである。数字では表れない選手としての経験を具体的に示し、「感覚知」を「実践知」として導き出す。荒木だからこそ見える光景、表せるものがあるはずで、聞くだけで心躍るテーマではある。しかし、立ちはだかるのは、ただ「書く」のではなく「論じる」難しさ。

「そもそも小論文すら書いたことのない私が、修士論文を書く時点で大変なことだし、論文、論じることの基本としてそこに“私”はいらないんです。研究の中でいろいろな人に話を聞くけれど、なぜその人に聞いたのか。どんな方法で分析したのか。それも全部示さないといけない。すべて未経験、未体験で未知の世界です」

 パソコンと向き合い、研究内容を発表するたびに改善点や指摘を受け、「その都度めちゃくちゃへこむ」と笑いながらも、そんな“今”はこれまで過ごしてきた選手時代の日々と多くの共通点があると感じている。

未知の世界は“楽しい”と紙一重

「未知の世界はいつだって苦しくて、ボロボロになるぐらい必死だけれど、でも“楽しい”と紙一重なんですよね。それは選手の時も同じ。何かに向かうその真っ最中はとにかく必死、でも目指しているものがあるから進めるし、頑張れる。そこは同じかな」

 わからないことがあれば調べる。そのうちまた新たに知らないことが出てきて、それは土の中に這う根のように広がっていく。でもその時々で松井教授を始めとした、「こうすればいい」「この資料を読んでみたら?」と指南してくれる人がいる。課題や壁に当たりながらも「贅沢な時間を過ごさせてもらっている」とかみしめる日々。

「経験してきたこと、やってきたことをどれだけ生かせるか。勉強したての言葉を使うと“暗黙知”や“経験知”を“形式知”にして、伝える力とかを身につけていくことができれば、バレー界、スポーツ界でも自分がやってきたことやキャリアを活かして変えていけるものもあるかもしれない。それが何か、今の自分にはまだ見えないのが現実でもありますが、少しずつ形にするために。今はボロボロの1年生、頑張ります(笑)」

(つづく)

#2に続く
「ディズニーランドへ行きたい娘のためにも仕事もしなきゃ(笑)」荒木絵里香が“大学院の課題”に追われながらバレーボール界のために動く理由

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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