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「ダービー馬の父」から浮かび上がったトウカイテイオーとウオッカの“ある共通点”…「グレード制導入後3頭のみ」の隠れた偉業とは?
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa/Hirokazu Takayama
posted2022/05/28 17:03
ともに3馬身差でダービーを圧勝したトウカイテイオー(右)とウオッカ。両馬のダービー制覇の裏には、着差以外にも“ある共通点”があった
大外枠から悠々と二冠を制した「帝王」
まずはトウカイテイオーから。父は、史上初の無敗のクラシック三冠馬となった「皇帝」シンボリルドルフ。ダービーで鞍上の岡部幸雄が早めにゴーサインを出しても動かなかったが、直線で自らスパートして圧勝。名手に競馬を教えた。
その初年度産駒の「帝王」も、デビューから連勝街道を突き進んだ。初陣となった中京の新馬戦、シクラメンステークス、若駒ステークス、皐月賞指定オープンの若葉ステークスと4連勝。すべて2着を2馬身以上突き放す完勝だった。
そして皐月賞に臨むことになったわけだが、単勝2.1倍という数字が示すように、確たる中心としての評価は得ていたものの、圧倒的な支持ではなかった。
懐疑的な見方をする向きは、重賞出走経験がなく、勝ったのは少頭数のレースばかりだったこと、当時はまだ効果が明らかになり切っていなかった坂路調教が中心だったことなどを、不安材料に挙げていた。
しかし、テイオーは、涼しい顔で皐月賞を制してしまった。
蹄と球節の間の繋(つなぎ)がバネの役割を果たすのか、パドックでは腰をリズミカルに大きく上下させる、人間でいうならモンローウォークのような歩き方をした。そのまま馬場入りし、大外18番枠から不利を食らわないよう走ってきたら勝ってしまった。デビュー20年目の鞍上、安田隆行にとっても、これが嬉しいGI初勝利となった。
ダービーはさらに頭数の多い20頭立ての大外枠だったのだが、好位の外をグルリと回ってきて、直線で2着のレオダーバンを3馬身突き放した。
これほど危なげのない走りでダービーを勝った馬を、私はほかに知らない。
その後、骨折が判明し、菊花賞に進むことはできなかった。が、古馬になってから天皇賞・春でメジロマックイーンとの「天下分け目の決戦」に挑んだり、国際GIとなった初年度のジャパンカップを勝ったり、1年ぶりの実戦となった有馬記念を制したりと、人々の心を動かしつづけた。
勝つときはすべて完勝。負けるときはすべて惨敗。そんなところも「テイオーらしさ」になっていた。