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「ゴロフキンに勝つかもしれない」村田諒太の激闘に“さいたまの夜の夢”を見た… 壮絶TKO負けも「最後まで口にしなかった言葉」とは
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2022/04/10 17:03
“日本ボクシング史上最大”と謳われたメガマッチで、ゲンナジー・ゴロフキンに9回TKOで敗れた村田諒太。しかし、試合後の会見での表情は晴れやかだった
「一撃をもらったら終わっちゃうんだろうなというパンチ力を想像していた。めちゃめちゃパンチはありましたけど、自分のブロッキングでなんとかなるかなと思いました」
ゴロフキン「どちらも限界、ギリギリの状態だった」
一方のゴロフキンとて手をこまねいていたわけではない。ジャブに加え、左フック、右アッパー、右フックと多彩なパンチを村田に打ち込んでいく。しかし、下がりながらパンチを打ち込む姿にいつもの迫力は感じられない。少なくともその表情からは、「余裕を持って村田に攻めさせている」とは感じられなかった。試合後のゴロフキンの言葉は決してリップサービスではなかったと思う。
「どちらも限界、ギリギリの状態で戦うような試合展開だった」
そして劣勢のゴロフキンはここから村田のボクシングにアジャストする。これが元3団体統一王者、WBA王座にいたっては19度の防衛をはたした“ミドル級の帝王”の底力だった。
ゴロフキンは前に出る村田の攻撃をうまくいなしながら、パンチの角度を変えて村田に迫っていった。肘を高く上げて打ち下ろすような左フックはそのひとつ。村田の武器である鉄壁のガードを内から、外から、下から、上からこじ開けるようにしてパンチを打ち込んでいく。リング上の村田は技術の差を感じ始めていた。
何度も打ち込んだ右ストレートは「暖簾に腕押しみたいな感じ」でうまく力を逃がされた。手応えを感じていたボディ打ちにもGGGは対応してきた。うまく腰をずらして被弾を最小限に抑えてきたのだ。村田は5回を境にはっきりと苦境に追い込まれていった。
それでも日本の誇る五輪金メダリストはプライドを捨てない。8回には本能なのか、今まであまり見せなかったローリングやダッキングといったディフェンス技術でゴロフキンのパンチを外してサバイバル。懸命に手を出して、逆転勝利に望みをつないだ。
固唾をのんで試合を見守っていた観客に大きな変化が現われたのは9回だった。「ムラタ! ムラタ!」の大合唱が自然に沸き起こったのだ。声出し応援禁止というルールを守っていたファンの感情は、もう抑えられないほどに高まっていた。
そんなファンの心情とは裏腹に、ゴロフキンが容赦なく村田を攻める。チャンスを逃さないキラーインスティンクトこそはGGGの真骨頂。40歳のIBF王者が右フックを打ち込むと、朦朧とした36歳のWBA王者の体が大きく傾く。左フックを追撃されて村田がキャンバスに崩れ落ちると、主審が迷わず右手を頭上で振った。青コーナーからタオルを投げながら田中繊大トレーナーがキャンバスに飛び出し、試合は終わった。