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「ゴロフキンに勝つかもしれない」村田諒太の激闘に“さいたまの夜の夢”を見た… 壮絶TKO負けも「最後まで口にしなかった言葉」とは
posted2022/04/10 17:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
日本のボクシング界を牽引するWBAミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳)が9日、さいたまスーパーアリーナでIBF王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのミドル級2団体統一戦に挑み、9回2分11秒TKO負けを喫した。“日本ボクシング史上最大”の一戦における村田の奮闘が、ファンの心に熱く届いた試合だった。
「もしかしたら…」夢が大きく膨らんだ序盤
さいたまの夜の夢を見た――。
2ラウンド、そして3ラウンド終了時、「勝つかもしれない」の走り書きがノートに踊った。帝拳ジムの浜田剛史代表は「村田がやるべきことは、ほぼできた。あと一歩、あと一発だった」と振り返った。さいたまスーパーアリーナに居合わせた1万5000人が「もしかしたら」と胸を高鳴らせた。
ボクシングファンにとっては信じられないようなビッグファイトだった。世界的に最も層の厚いクラスのひとつであるミドル級は、今は亡き白井義男さんが日本で初めてフライ級世界王者になってから70年がたっても、いまだ日本人選手にとっては遠い世界であり続ける。そんな階級の世界タイトルマッチで、しかも相手は数々の記録を打ち立てたレジェンド“GGG(トリプルジー)”ことゴロフキン。試合前の予想はゴロフキンの勝利に大きく傾いていた。
村田に勝ってほしい。でも、ひょっとするとあっという間にやられてしまうのかもしれない……。小さくない期待と抑えきれない大きな不安が入り交じった感情こそは、スポーツ観戦の醍醐味だった。
立ち上がり、ゴロフキンの出したジャブがいきなり村田の顔面をとらえた。「初回が大事だと思う。そこでジャブをもらうようでは厳しい」と話していた村田の言葉が脳裏によみがえる。やはりダメなのか……。たちまち弱気になりかけたアリーナの空気を振り払うかのように、村田が勇ましく前に出始めた。得意の右ストレートを打ち込む。踏み込んで左ボディブローを放つ。2年4カ月というブランクの影響はまったく感じられない。再び村田の言葉を思い出す。「初回からプレッシャーをかけられればいい展開になると思う」。プレッシャーはしっかりかかっていた。
半信半疑の期待は2回に入るとさらに増した。村田が迷わずプレスをかける。左フックに加え、右ストレートがゴロフキンの腹にドスンと入る。GGGのウイークポイントと言われ、村田がこの試合のために磨きに磨いてきたボディブローだ。村田は3回も前に出て、次々とパンチを打ち込む。夢は大きく膨らんだ。