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彩羽匠「見とけよ、スターダム」 マーベラスと仙女、“女子プロレスの本流”を継承する者は? 長与千種も賞賛した“最高の試合”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/01/27 11:03
1月10日、マーベラス後楽園ホール大会にて対戦した彩羽匠と仙女の橋本千紘
彩羽「マーベラスにはベルトが必要なんです」
女子プロレスファンなら誰もが認める実力者同士の対戦は、そのスタンスに大きな違いがあった。仙女にとって“看板”は自団体のベルト。AAAW王座復活に際して、里村は「神棚に飾っておきます」と語り、実際タイトルマッチは行なわなかった。
一方、マーベラスは旗揚げ以降、ベルトなしで運営されてきた。だがタイトルマッチで“ベルトを回す”ことは興行の軸になる。マット界におけるマーベラスの存在感を高めるためにも、彩羽はこのベルトを必要としていた。試合前にインタビューすると、彩羽はこう語っている。
「少し前にスターダムの大阪大会でユニット対抗の6人タッグトーナメントがあったんです。私たちもマーベラス代表として出たんですが(彩羽&門倉凛&Maria)、1回戦負け。凄く悔しい結果でした。他団体から乗り込んできたのに初戦敗退では“お前らプライドあるのか”となってしまうじゃないですか。
マーベラスは団体としては小さいですけど、試合内容には絶対的な自信がありました。それだけの練習をしてきたし、後輩にはいろんなことを教えてきた。でもスターダムに出てみると、足りないものがあるなって。もっと突き抜けたものがほしい。
たぶん、今マーベラスの選手にとって大事なのは欲を出すこと。ベルトという具体的な目標があれば変わってくると思う。そういう意味でも、マーベラスにはベルトが必要なんです。
それはスターダムに出ることで気づけましたね。スターダムにはベルトがたくさんある。多すぎるんじゃないかと思う時もあるんですけど、目標があるから選手がみんなギラギラしてるんですよ。
後輩たちのケツを叩きたいですね。それには自分が試合で見せなきゃいけない。自分と橋本千紘の闘いで後輩たちが何を感じるか」
“直系のベルト”は存在感を示すギリギリのチャンス
昨年夏、彩羽が復帰すると、逆にベテランのKAORUが負傷欠場。退団者も出た。“逆襲”の旗印としてもベルトがほしかった。後輩たちだけでなく、自分に対しても「悶々としてました」と彩羽。
「復帰してからコンディション自体はいいんですけど、結果が出なくて。女子プロレス界ではたくさんのことが動いていて、ケガから復帰しても前と同じようにはいかなかったです」
林下戦、タイガー・クイーン戦と“新世代”の選手に敗戦。流れの速い女子プロレス界であらためて存在感を示すためにも“橋本千紘に勝って長与千種を初代王者とする直系のベルト奪取”は大きな、そしてギリギリのチャンスだった。
「自分はみんなに“強いね”と言われます。でもたくさん負けてきた。逆に橋本千紘は負けるイメージがほとんどない選手。悔しい思いをたくさんしてきたというのは“場数の違い”になると思います。自分と30分ドローになって、橋本千紘は“汚点”と言っていた。それはまだまだ(場数が足りない)ってことですよ」
長与が「教科書」と称えた“彩羽vs橋本の再戦”
2人の再戦を、長与は「王道」だと称えた。クライマックスの大技ラッシュだけではなく、序盤の「取り合い、探り合い」もポイントだったという。
「あれができる人はなかなかいないんです。教科書と言ってもおかしくない」
確かにそうだった。ヘッドロックをはじめとした“基本”の技に力がこもる。橋本は手首を掴んで相手の動きをコントロール。彩羽が見せた、背中側に腕を固めるハンマーロックもタイトだった。“いわゆる序盤戦”とは違う緊張感だ。
そこから場外戦があり、打撃の打ち合いがあり、フィニッシュをめぐる攻防へ。拍手をはじめ声援禁止でも感じられる会場の熱。それが自然に上がっていく様は、プロレスの試合として理想的に思えた。