橋本を倒すために彩羽が用意した“奥の手”

　長与から受け継いだ必殺技ランニングスリーでも試合が終わらない。この技をカウント2で返すことができるのは、橋本千紘だけだろう。だが彩羽はさらなる“奥の手”を用意していた。ランニングスリーの発展型、相手を回転させながら落とす「ランニング・パイレーツ」だ。

　これも、かつて長与が使った技。橋本戦に向けて長与と練習してきた。そうして彩羽は、長与が巻いたAAAWのベルトを手にした。自身も（いつもと同じように）中継のカメラを回していた長与は、試合を見届けると闘った2人を絶賛した。

「この2人が組んだら男子のベルトだって獲れる」

　この試合が評価されないプロレス界なら燃やしてしまえばいいとさえ言う。マーベラスは後楽園大会がビッグマッチ。活動規模や知名度は満足のいくものではない。しかし、そのことと試合内容は関係がない。彩羽匠vs橋本千紘は男子も含め現在の日本マット界で最高のマッチアップの一つだし、そのバリューはこれからさらに上がるはずだ。

　リング上で長与が彩羽にベルトを巻く。“継承”の儀式だ。今後はシングル王座の防衛戦を彩羽が行ない、タッグについては新チャンピオンを決める試合が組まれるという。団体の“看板”ができたことでマーベラスがどう変わるか、業界にどんなインパクトを残すかがポイントになってくるだろう。

「ベルトを獲ったら嬉しいのかと思ったけど震えが止まらないです。たぶんビビってますね」

　彩羽は心境を率直に打ち明けた。このベルトは自分にとっての勲章というだけではないからだ。

「元スターダム、いまはマーベラスだからこそ追い抜きたい」

「自分はずっと“凄いね、試合が面白いね”と言われてきたんですけど、結果が出せなかった。勝っても負けても彩羽匠は彩羽匠と言われて、それは褒め言葉なんだけど悔しくて。これからは試合だけでなく時代という結果を出します。今までは（長与から）技とか見せ方を受け継いできたけど、自分の力で形になるものを掴むことができた。今まで巻いた中で一番重いベルトですね」

　勝っても負けても評価が高いのはレスラーとしての力の証明だ。そこがプロレスらしいところでもある。ただやはり、勝たなければ実現できないものもある。マーベラスのエースとして「負けてもいい試合ができた」ではなく負ける悔しさを胸に刻んできたから、この日の勝利があった。

「今はスターダムがダントツで一番だというのは分かってます。自分は元スターダム、いまはマーベラスだからこそ追い抜きたい。何言ってるんだと思われるかもしれないけど、見とけよって」

　2021年は復帰して悔しさを味わった。2022年は結果を出す年にすると決めて迎えた。スタートは最高。直後にPCR検査で陽性となり試合を休むことになったが、戻ってくれば彼女の存在が女子プロレス界のカギになるのではないか。彩羽は防衛ロードに向け、他団体にもアピールしていくつもりだという。

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