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<53歳に>武豊「最も乗りやすかったのは、断然オグリキャップです」では、“最も難しかった馬”とは? 第一人者が明かす本音の“騎乗論”
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byNaohiro Kurashina
posted2022/03/15 06:00
3月15日に53歳になった武豊。自らのJRA最多勝利記録を更新し続けている
レース前のシミュレーションや作戦について語ったこと
――武豊モデルは何種類かあるんですか。
「普通のステンレスと、軽いアルミ製の2タイプで、黒いのがアルミ製です。ボクが気に入っているのはステンレス製。52kgとか軽い斤量のときにアルミを使う感じです。たいていの騎手は軽さを求めるんでしょうけど、ボクは軽さを追求していません。踏み心地のいい鐙には、ほしい重さというものがあるんです」
――その武豊モデルを川田将雅騎手が使っているとも聞きました。
「ボクが鐙を作っていることに将雅が興味を示したので、『川田将雅モデルを作ってみる?』って紹介したんです。そろそろ出来上がる頃じゃないかな?
それで、前段階としてボクのアルミ製のものを使ってもらっていたんですが、『めちゃめちゃ履きやすいですね』と気に入ってくれて、結果として重賞もバンバン勝った。それで馬が速く走るわけではないとも思うけど、自分の感覚で気に入ったものを使う方がいいじゃないですか。要は、自分の好みは大事にしたいってこと。プロの道具って、そういうものだと思うんです」
――道具でいえば、鞍もそうですか?
「デビュー5、6年目の頃だったかな。ソメスという日本の皮革製品のメーカーさんと、何回も何回も打ち合わせを繰り返して、納得のいく鞍を作り上げてもらいました。サイズや重さはいろいろありますが、今ソメスで一般的に売られているものは、言ってみれば武豊モデルです。なにも不満がないので、そこから27~28年変わってないです。変える必要がないんですよね」
――レース前のシミュレーションや作戦について教えてください。
「あの馬多分スタート早いよな、それで最初のコーナーこうなるんじゃないか、向こう正面でこう、3コーナー、4コーナーが……っていうのは想像します。決めつけはしないけど、ある程度は。その中で自分の馬がどの辺にいたらいいかな、とかですね」
――どこかに書きとめたりはしませんよね。
「全部頭の中です。前の日とかは凄い考えます。当日もですが。とにかく枠順が出てからですね。よく水曜、木曜にどんな競馬を? って聞かれるけど、馬場状態もわかんないしね(笑)。いろいろ考えて、全然違う競馬になって勝つこともありますしね。
でもいろいろペースとかをシミュレーションしていても、最後はやっぱり当日の返し馬の感触です。それで輪乗りしてる時に乗り方を決めてる感じがしますね」
――以前、スタートからゴールまで100個くらいのポイントがあるというお話を伺いました。
「うーん、細かく言えば、それくらいあるんじゃないかな。ただレースは考えてる間も進んでいるので、その時々でどう考えていたかもよくわからないけど」