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<53歳に>武豊「最も乗りやすかったのは、断然オグリキャップです」では、“最も難しかった馬”とは? 第一人者が明かす本音の“騎乗論”
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byNaohiro Kurashina
posted2022/03/15 06:00
3月15日に53歳になった武豊。自らのJRA最多勝利記録を更新し続けている
――最後に、最も乗り難しかった馬と、乗りやすかった馬は?
――すべてのレースのポイントになったところは覚えてるものなんでしょう?
「覚えてますね。馬の名前言われて、『その馬、乗ったことあった?』って言うぐらいわかんなくても、いついつのどこどこの、って言われた途端に『ああ、雨の日の千四ね。俺が内回ったやつ』って。そういうのは気づいたらポンって出てくるものです」
――レース中のフラッシュバックとかありますか? 「こういう場面、前もあったな」というような。
「よくあるよくある。全く違うメンバーのレースなんだけど、あの時のレースに似てるなって。あの時は内に行って挟まったんだよな、とかね。そのときそのときでできる限りのことはしているんですが、また内に行って挟まったり(笑)」
――17歳から乗り続けて、もちろん海外の競馬も知っているわけですから、引き出しの数は世界一でしょう。
「たくさん乗ってますからね。でも、なかなかうまくいかないのが競馬です。不思議なもので少頭数ほど難しかったりしますからね。本当にすんなりっていうこともあるんですが、たった7頭立てでこんなに挟まるのか、みたいなこともある。外に持ち出すと裏目に出たりね」
――最後に、最も乗り難しかった馬と、乗りやすかった馬を教えてください。
「ディープインパクトは大変でした。危ないなというのはデビュー前に感じていて、だからソローッと乗って、ムチも使いませんでした。まあ、使わなくてもいいぐらい強かったのもありました。その難しさが段々解消していったことも印象深いです。
乗りやすかったのは断然オグリキャップです。ボクが騎乗したのは最後の年の2回だけでしたが、1600mでも2500mでも、ポンとスタートを切っていいポジションでジッとできて、追えばシュッと伸びてくれました。いま、そんな馬いないでしょう。マイルでも2500mでも同じ競馬ができるなんて。止めるのも簡単で、ウイニングランをパーッとやったけど、池江(敏郎)厩務員を見つけてピタッと止まる。あんな賢い馬はいませんでした」
――それくらい賢い馬だと、ジョッキーの腕が鳴るものですか?
「よく言われるんです、クセ馬で勝ったら嬉しいんじゃないですか、って。もちろんそれも嬉しいけど、なんでもできる賢い馬で、本当に自分のやりたいレースをして勝つのがいちばん嬉しいかもしれません」
武豊騎手はこのインタビューが行われた直後、5月1日の阪神競馬から再びバリバリ乗り出し、その始動戦も1着でスタート。「休み明けから動けるタイプですから(笑)」と、コメント力ももちろん健在だった。
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