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<53歳に>武豊「最も乗りやすかったのは、断然オグリキャップです」では、“最も難しかった馬”とは? 第一人者が明かす本音の“騎乗論” 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

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photograph byNaohiro Kurashina

posted2022/03/15 06:00

<53歳に>武豊「最も乗りやすかったのは、断然オグリキャップです」では、“最も難しかった馬”とは? 第一人者が明かす本音の“騎乗論”<Number Web> photograph by Naohiro Kurashina

3月15日に53歳になった武豊。自らのJRA最多勝利記録を更新し続けている

「現役生活は長くなかったんですが、あの人こそ天才です」

――アメリカでは、ちょっとアメリカ風に工夫していました?

「その方がいいかな、と思いましたね。調教師や馬主の好みっていうのもあるから、そこも多少は考えました。フランスでも、もちろん同じように考えました。ジョッキーは騎乗依頼があってナンボですから」

――アメリカンスタイル、ヨーロピアンスタイルの特徴はどこにあるんでしょう。

「アメリカの競馬はスタート直後からトップスピードに乗せていくレースが多いので、馬を抑える時間っていうのが極端に短い。走りやすく整備されたところでしか競馬はやらないという特徴と、トラックは左回りのみというのもアメリカならでは。鐙あぶみを短くしても馬のバランスを損ねる恐れはあまり考えなくてもいいし、スピードに対応するにはその方がいい。対照的に、ヨーロッパの場合は競馬場って言ったってトラックじゃないから。アンジュレーションがすごいし、雨も良く降る。距離も長かったり、直線だけの競馬とかいろいろある。そうするとどうしても馬を抑えるというか、キープするっていうことが大事になってくる。アメリカとヨーロッパの大きな違いです」

――両方に対応するというのは相当、大変なことなんでしょうね。

「昔、スティーブ・コーゼンというアメリカ人の名騎手がいました。16歳でデビューして、17歳で全米リーディング。18歳のときにアファームドで三冠('78年)を取っちゃったのかな。もう、それだけで天才ですわ。でも、そのあと急に勝てなくなったのは体重調整などで精神的に滅入ってしまったからのようでしたが、19歳でイギリスに呼ばれるとスパッと拠点を移し、そこで再び甦ってチャンピオン(英リーディング3回など)になったんです。すごいのは、アメリカのときとは乗り方が全然違っていたこと。ゴリゴリのアメリカンスタイルから、ゴリゴリのヨーロピアンスタイルに格好よく変身して、しかもすごい結果を出した。体重の関係で現役生活は長くなかったんですが、あの人こそ天才ですね」

――格好いい、と言えば、いまなら(ランフランコ・)デットーリでしょうか。

「そうですね。フランキー(デットーリの愛称)は、そこにいるだけで華があります。騎乗フォーム、馬の上でのいでたち。パドックの時点で格好いいなと思えますし、常歩(なみあし)だけで見惚れます。一昨年でしたか、栗東トレセンにフランキーがやって来たとき、ジョッキーがみんなソワソワしていました。実績では同じぐらいの人も来ていたんですが、一瞬で空気を変えてしまったのはフランキーだけじゃないかな」

――千田輝彦調教師が「デットーリの下半身はジョッキーの理想体型。膝上が長くて、膝下が適度に短い。あれは日本人では敵わないよ」と言っていました。

「理論派の彼が言うのならそうでしょう(笑)。それと、フランキーの足首は絶対に柔らかいんだろうな、って思いますね。あの柔らかさは、なんか人と違う感じは受けます。独特の鐙の踏み方してるしね。独特というのは違うかな? ボクの好きな鐙の踏み方ですね。日本人でもアメリカ人でも、いろんな所で『あ、こういう踏み方ね』とか感じることが度々あります」

【次ページ】 「短期免許で日本に来て帰国後にブレークする人、多いですよ」

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