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「ノムさんはどう見たのだろう…」極寒の神戸で思い返す“28年前の秋” ヤクルトとオリックスの激闘こそ「プロ野球のあるべき姿」

posted2021/12/01 11:02

 
「ノムさんはどう見たのだろう…」極寒の神戸で思い返す“28年前の秋” ヤクルトとオリックスの激闘こそ「プロ野球のあるべき姿」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

試合後、日本一に輝いたヤクルトの高津臣吾監督は、オリックスのエース・山本由伸と握手。互いの健闘を称え合った

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長谷川晶一

長谷川晶一Shoichi Hasegawa

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Hideki Sugiyama

 5時間にわたる激闘を制し、高津臣吾監督が勝利監督インタビューに臨んだ。その光景を極寒のほっともっとフィールドで見つめていて、「おっ」と思った。インタビュアーによる「最下位からの日本一、改めてどんな思いでいらっしゃいますか?」という質問に対して、高津監督はこんな言葉を口にした。

「応援してくれたファンのみなさん、選手諸君、そして球団スタッフのみなさんに、心から、感謝、感謝、感謝です」

 その瞬間、一瞬にして28年前の秋の日の光景がよみがえる。1993(平成5)年11月1日、西武球場(現メットライフドーム)で行われた西武とヤクルトとの日本シリーズ第7戦。前年の屈辱から1年が経過し、悲願の日本一を決めたこの日、勝利監督インタビューに臨んだ野村克也はこう言った。

「いずれにしましても、ファンのみなさま、選手諸君、コーチ、そして球団の方々、本当にみなさんに、感謝、感謝、感謝です」

「ノムさんはこの光景をどう見たのだろう…」

 感謝、感謝、感謝――。高津監督が口にした言葉は、かつて野村克也が口にしたフレーズとまったく一緒だった。間違いなく、自身が胴上げ投手となった28年前のことを意識した上での発言だろう。事実、「野村監督の言葉をお借りして、勝ったら言おうと思っていました」と、試合後に高津は語ったという。

 それは、28年前の歓喜と興奮が、今、目の前で行われていた息詰まる死闘と交差した瞬間だった。「あぁ、あれからかなりの時間が経過したのだな」という感慨と、「ノムさんはこの光景をどう見たのだろう……」という思いと、「高津監督、本当にどうもありがとう」という感謝の念が入り混じったさまざまな心境になった。

 1992年、そして翌93年に行われた西武とヤクルトとの日本シリーズを観戦したときは大学生だった。このときの感動と興奮が忘れられずに、それから30年近くが経過した昨年、『詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)という本を上梓した。西武、ヤクルトの関係者のべ50名に話を聞き、当時の試合映像を繰り返し見た。

 今回の日本シリーズも全試合、緊張と興奮とともに見届けた。随所に「あっ、あのときと同じだ」と感じる場面や、ふと西武とヤクルト両チームの選手たちの雄姿が頭をよぎる瞬間が何度もあった。今年の日本シリーズは全6試合中、5試合が1点差であり、1試合が2点差という僅差の展開が繰り広げられた。平成の「詰むや、詰まざるや」が92年と93年であるならば、21年のこの日本シリーズは「令和版・詰むや、詰まざるや」と言えるのではないだろうか? 23時を過ぎた極寒のスタジアムで、僕はそんなことを考えていた。

【次ページ】 予告先発を拒否した高津監督に「野村イズム」を見た

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