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石川祐希がオリンピックで勝ちたかった本当の理由…世界を見て磨いた“フェイクセット”「子どもたちにバレーをもっと知ってほしい」
 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byRyosuke Menju/JMPA

posted2021/08/04 17:03

石川祐希がオリンピックで勝ちたかった本当の理由…世界を見て磨いた“フェイクセット”「子どもたちにバレーをもっと知ってほしい」<Number Web> photograph by Ryosuke Menju/JMPA

キャプテンとして日本代表を引っ張った石川祐希。ブラジル相手に見せた華麗なプレーは多くの子どもたちの夢につながるはずだ

 石川はコートのエンドライン中央から強烈なジャンプサーブをブラジルのコートに打ち込んでいく。ほぼ真っ直ぐ放たれた軌道は名手が揃うブラジルのレシーブを弾き、ボールはスタンドへ飛び込んだ。 

 サービスエース。これで17-22。

 続いて石川はまたもサーブでコースをつき、ブラジルの攻撃の選択肢を減らす。それを見た日本のブロックがコースを限定させたことで、逃げようと打ったブラジルのスパイクはラインを割った。

 これで18-22。

 ブラジルはたまらずタイムアウトを挟んだが、再開後の石川3本目のサーブはノータッチで突き刺さった。

 19-22。

 石川の勝利を諦めずに攻める強い気持ちによって、その差は一気に3点まで詰め寄った。試合後、この場面を振り返る。

「ああいう状況だったので、ベストパフォーマンスを出すしかなかった。負けてしまったので何とも言えないですけど、僕の持てるすべてを最後まで出しきれたと思います」

 結果的に、日本が追い上げたのはそこまでだった。日本は3-0でストレート負けを喫した。東京五輪での戦いを終えた日本代表は互いに拍手を送り合い、仲間を1人1人労った。石川もタオルで汗と涙を拭った。

「悔しい、のひと言です」

 世界王者に本気で勝ちに行った。でも、ブラジルは強かった。

「この舞台に立てたことを非常に幸せに思いますし、次はさらに上を目指せるチームにしていかなければいけない。この先も険しい道だと思いますが、1つ1つ乗り越えて行きたいと思います」

 出場が果たせなかったリオ五輪から5年。ケガで満足にシーズンを通してプレーすることができない時期や、思うように伴わない結果や周囲との意識の違いに苛立ちを抱いたこともあった。

 初めての五輪を、主将として戦い終えた今、何を思うか。試合後のインタビューではこんな言葉を残している。

「最高のチームだったと思います。負けてしまいましたけど、僕たちの持っているものはすべて、このコートに出すことができたのかな、と思います」

「子どもたちにもっとバレーボールを」

 1人のプロバレーボール選手として、日本代表の主将として東京五輪で1つでも多く勝利を求める。「世界トップクラスのアウトサイドヒッターになりたい」という自身の目標を叶えるため、日本のバレーボールが強いと世界にも知らしめるため。そして、もう1つ「勝ちたい理由」が石川にはある。

 東京五輪の開幕前、石川はこう言った。

「バレーボールが好きな方はたくさん試合を見たり、会場へ来て下さる。それはすごくありがたいことですが、僕は子どもたちにももっとバレーボールを知ってほしいし、試合も気軽に家族連れで見に来てほしい。僕たちがオリンピックで勝つことが、子どもたちにも夢や希望を与えられるきっかけになるかもしれない。子どもたちの未来のためにも日本代表として結果を残す。オリンピックは、そういう大会だと思っています」

 メダルには届かず、まだまだ世界の壁は分厚く高い。だがこれは日本男子バレーにとって紛れもなく、新たな歴史へとつながる大きな一歩。

 多くの子どもたちが、「俺、石川みたいになる!」と目を輝かせ、楽しそうにフェイクセットにチャレンジする。そんな光景が、当たり前に広がって行ったら最高だ。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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