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石川祐希がオリンピックで勝ちたかった本当の理由…世界を見て磨いた“フェイクセット”「子どもたちにバレーをもっと知ってほしい」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2021/08/04 17:03
キャプテンとして日本代表を引っ張った石川祐希。ブラジル相手に見せた華麗なプレーは多くの子どもたちの夢につながるはずだ
振り返れば東京五輪が開幕する前、石川は何度も同じ言葉を繰り返してきた。
「“個”が強くないと勝てない。チーム力が日本の強みと言われますが、まずチーム力を、ではなくて、まず高めるべきは個の力だと思うんです。肝心な場面で決めきる、そういうプレーをするには個の力がないとできないし、お互いをカバーし合うことを優先するのではなく、まず個々が自分の役割を果たす力と技をつける。そうなれば、必然的にチームとしての力も上がると思うんです」
初戦・ベネズエラ戦から日本が見せたのは、まさに石川が言う強い“個”が揃ったチームとして戦う姿だった。
強い印象を残す西田や石川のスパイクだけでなく、ミドルブロッカーの小野寺太志、山内のブロック、そして狙われても崩れない高橋藍のサーブレシーブや、相手の強打を何本も拾ったリベロ山本智大のディグ。また、数字としては見えにくいが、ネットに近い返球をジャンプしてワンハンドで遠いサイドにも飛ばす関田のセッターとしての基本技術、ゲームメイクも忘れてはならない。
それぞれが、自らの役割を全うする。そして常にベストパフォーマンスを発揮する。北京大会から13年も遠ざかっていた五輪はもちろん、世界選手権やワールドカップなど、多くの大会を取材してきたが、これほど胸躍る男子バレー日本代表を見たのはいつぶりだっただろうか。そう思い返すほど、堂々とした戦いぶりは、変化と進化を遂げた“強い個”の集団だった。
高すぎたブラジルの壁、それでも
だが、それでもやはり、ブラジルの壁は厚かった。
時にスーパープレーを見せた日本がノーマークで叩きつけようとも、またその上から1枚も2枚も上回る力を、これでもか、とばかりに見せつける。
一時は4点をリードした第2セットを逆転の末に奪われた日本は、第3セットもブラジルに先行を許し、16-22。負ければ終わりの一発勝負で、6点を追う状況で終盤に突入した。
せめて1点でも返せれば――大半の見方はおそらくそうだっただろう。
だが、石川は違った。