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「こんなオリンピックはもうないですから」逆境こそ財産、高校バレーの名将が渾身エール「アスリートは応援されることに慣れ過ぎている」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAFLO SPORT
posted2021/07/22 17:00
難しい心境で大会を迎えるアスリートを思いやって、明瞭なエールを送った小川良樹監督(写真は2017年)。そこには自身が歩んできた道への自負があった
下北沢成徳は荒木絵里香、大山加奈、木村沙織など、多くのバレーボール日本代表選手を輩出してきた名門校だ。東京五輪にもロンドンに続いて2度目の主将を務める荒木ほか、黒後愛、石川真佑と3人のOGが出場する。
加えて小川監督は荒木や大山を擁した02年度に春高、インターハイ、国体の三冠など、数多くの好成績を残した名将と知られ、アンチどころか、同校に憧れを抱いて入学を希望する選手も多く、高校というカテゴリーを抜きにしてもファンが多いチームである。
だが、苦難なくして栄光なし。初めからもてはやされてきたわけではない。
「全国大会に出場してもなかなか勝てない頃は、学校内でもずいぶん反発されました。当然ですよね。みんながみんなスポーツを好きなわけではないし、何でバレーボールなんかに時間を費やすんだ、って思う方もいる。むしろバレーボール部なんて潰れたほうがいい、と思われていたぐらいで、応援されるなんてとんでもない。僕もOGたちも、当時は学校と戦う状況が数えきれないぐらいありました」
批判、嫉妬…全てが「貴重な財産」
下北沢成徳に限らず、同様の話は至るところで聞く。たとえば高校野球で全国出場を続けるようなチームでも、勝つことを当たり前とされるうちに負ければ「辞めろ」と言われ、「やり方が甘いからだ」と、指揮官は批判の矢面に立つ。
社会人になってからもそう。企業に属するアスリートの場合は、他の社員が定時まで仕事をする中、“練習なので”と昼過ぎに切り上げる。すると「あの程度の成績しか残せないのに、仕事もせずいいご身分だ」と聞こえるように何度も言われた……そんなエピソードを聞いたのも一度や二度ではない。
だがその経験こそが「貴重な財産」。小川監督はそう言う。