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「こんなオリンピックはもうないですから」逆境こそ財産、高校バレーの名将が渾身エール「アスリートは応援されることに慣れ過ぎている」
posted2021/07/22 17:00
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
AFLO SPORT
まるで「スポーツの祭典」が始まるとは思えない空気感の中で、いよいよ東京五輪が開幕する。
相次いで露呈する問題の数々、決してクリーンとは言えない背景……新型コロナウイルスという想像もできなかった事態を差し置いても、連日の報道に、楽しみどころか嫌気が差すばかりという声があちらこちらから聞こえてくる。本来なら、初めての自国開催の五輪に向けて抱負を語るはずのアスリートたちが、まるで悪のように扱われるのが現状だ。
もちろん、医療体制や経済状況を考えれば、すべてが五輪を肯定する意見ばかりでないのは当たり前。むしろ、ルーツを東北に持つ1人としては「復興五輪はどこへ行った」と叫びたくもなる。
この場所を目指して必死で取り組み、家族との時間や引退後のキャリアを犠牲にしても挑戦を続けて来た選手がいる一方で、同じように多くの時間をかけても、この場所に立つことすら叶わず、夢半ばで挑戦を終えた選手もいる。ようやくたどり着いただけでも誇るべきことなのに、これほどまでに応援されない五輪に臨まなければならない心情はいかほどか。想像するだけでも胸が痛む。
何が正解か――見る場所によって答えが異なる中、オンライン取材の限られた場でアスリートたちは「何を言っていいかわからない」と言葉を選ぶ。堂々と胸を張って夢を語ることのできない選手たちの姿に、多くの先人たちも「気の毒だ」と心を寄せている。
全然、不幸せなことじゃない
唯一の例外が、下北沢成徳高女子バレーボール部の小川良樹監督だった。
「知らず知らずのうちに、アスリートは応援されることに慣れ過ぎていると思うんです。むしろ、これほどアンチの中でオリンピックを戦う、そんな経験は滅多にできることではありません。今は高校生の大会でも無観客が当たり前になりましたが、僕は生徒たちに言うんです。『コロナで練習が思うようにできない。試合を見てもらえないというのは全然、不幸せなことじゃない。誰もしたことがない経験ができるのは、君たちにとってすごく大きな財産なんだよ』って」
応援されることに慣れ過ぎている。考えもしなかった言葉の背景には、小川監督自身が重ねた経験があった。