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「こんなオリンピックはもうないですから」逆境こそ財産、高校バレーの名将が渾身エール「アスリートは応援されることに慣れ過ぎている」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAFLO SPORT
posted2021/07/22 17:00
難しい心境で大会を迎えるアスリートを思いやって、明瞭なエールを送った小川良樹監督(写真は2017年)。そこには自身が歩んできた道への自負があった
「選手は一生懸命やっているんだから応援してほしい。僕の立場ではそう思いますよね。でも違うところには『何で? そんなに大事なことなの?』と見る人もいる。いわばアンチばかりの状況で、それでも自分はやると決めたらやり通す。そういう経験がないまま、あまりに恵まれた状況で常に頑張れ、頑張れと応援されることに慣れてしまうと、世の中には応援されない状況で一生懸命頑張っている人がたくさんいるんだよ、ということに気づかないんです」
東京五輪を取り巻く状況もまさに同じだ。
「自分たちのオリンピック」とばかりに、チケットを手に胸を躍らせる。チケットが取れなかった人もテレビ放映を心待ちにする。全国の至るところで外国人観光客や、事前キャンプに訪れたさまざまな競技の各国代表選手たちに触れ、知らぬ人たちにも「頑張れ」と声援を送る。それが2013年に東京五輪を招致し、開催が決定した時に描いた未来だった。
ところが、スタジアムやアリーナに観客は入れない。高まるのは応援よりも反発で、「オリンピックだけは特別」とも見える状況に「楽しみだ」と言うことすら憚れる。もはや東京五輪を「自分たちのオリンピック」と思う人のほうが圧倒的少数だろう。
なぜこんなことに。そう嘆きたくもなる現状に、小川監督はこの逆境は後につながる未来できっとプラスになる、と言う。
「こんなオリンピックはもうないですから。だからこそこの状況で戦うことで、その場に立つ選手はきっと感じ方、見方も変わるはず。応援されないことも当たり前と考えて、終わった時にアンチの人たちにも『素晴らしかった』と言ってもらえるようなプレーをしてやろう、結果を出してやろうと思えるようになったら面白いですよね。下を向くことも、悪いと思う必要もない。内心では『クソー』と思うぐらい悔しくても、そこで結果を出せば這い上がる、認めさせることができるチャンスですから」
果たして選手たちは何を感じ、何を得るだろうか。
すべての人々にとって“初めて”の五輪が、幕を開ける。