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藤井聡太18歳の“棋聖戦・渡辺明に3連勝防衛”は「一局ごとの強さの意味合いが違う」 タイトル経験棋士・中村太地が驚く進化
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by日本将棋連盟
posted2021/07/13 11:00
棋聖戦第2局の終局後の藤井聡太二冠と渡辺明名人。中村太地七段も驚きの内容だったという
後ほど取り上げますが――今までは藤井二冠の勝ち方と言えば、第3局のように"カッコよい一手"が決め手となることが多い。一般の方が見ても「これはすごいな」と伝わるような勝ち方です。
基本に忠実、しかし「難しい手」の連続
しかし第2局に関しては、派手な手はほとんどなかった。語弊を承知で言えば地味な展開でしたが、だからこそ藤井二冠の強さが光りました。基本に忠実な手を指している。ただ実際、対局者の立場として指せるかと問われれば「難しい」という手が多かったのです。
私も野球やサッカーなどのスポーツを観戦していると――強さの本質を100%理解しきれていないのだろうな、という勝負があります。本局における藤井二冠の強さは、それに近い印象です。サッカーで言えば、最終ラインや中盤のパス回し、ポジション取り、ボールタッチの質……分かりやすい決定機の局面以外でも、ことごとくミスがない。その質が際立っていました。高いレベルで戦ったことのある解説者や現役選手の方しか知りえないような強さ、というのはこの第2局だったと思います。
第3局は超難解な中で、最終盤に
そして第3局は現在の流行戦型である矢倉(※将棋における囲いの代表格。中村七段の師匠である米長邦雄永世棋聖が「矢倉は将棋の純文学だ」と評したこともある)となりました。
こちらもまた渡辺名人は相当な準備をして、想定する展開に進んだと推察されます。ところが中盤の藤井二冠の受け方が、おそらく渡辺名人の想定から外れた。その局面から一手一手ごとに非常に難しく、互角の局面が続く展開となりました。
本局は、渡辺名人が中盤の難所をとてもうまく指して、優勢を築きました。終盤のところもあと一押し、ボクシングで言えば決定的なパンチが入ると藤井二冠の方がKOされてしまう状況が続きました。そこを藤井二冠はギリギリ耐えて、先手(渡辺名人)の嫌みをつくような粘り方を見せました。
お互い持ち時間が非常に少なくなった中、最終盤は何十手先の"詰む詰まない"を読まなければいけない状況。「超難解な将棋」という言葉がぴったりな一局でしたね。そこで渡辺名人の手番に……ミスというのは酷なのですが、一手だけ最善手ではない指し手となった結果、藤井二冠が体を入れ替えて、形勢が一気に傾きました。