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EUROに見る「最新のMFトレンド」 イタリアやイングランドの“伝統スタイル脱却”と田中碧の覚醒に共通するものとは
posted2021/06/25 17:05
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
UEFA/Getty Images
「というよりも、(トップレベルの)フットボールそのものが変わったと思う。求められる技術やスピードが飛躍的に高まり、すべてのポジションで様々な能力が必要になっている」
ひと月ほど前に行われたチャンピオンズリーグ決勝の前日会見で、その翌日に欧州王者になるチェルシーのトーマス・トゥヘル監督はこんなことを言った。イングランド人記者からの質問は、「近年のイングランド人選手の能力、特に技術的な側面の変化について、どう捉えていますか?」というものだった。つまり47歳のドイツ人指揮官は、変わったのは競技発祥地出身の選手だけではなく、このスポーツ全体に言えることだと指摘したわけだ。
各国代表の独自性は、いい意味で薄れている
フットボールそのものの変化は、現在、欧州全土で開催されているEURO2020でも、しかと確認できる。言い換えれば、かつてのような各国代表の独自性は薄れている。強豪国は一様に支配力を高め、中堅国にも逆襲一辺倒のチームはほぼない。そうした流れは以前から見られていたが、ここにきて加速度的に進んでいる印象だ。
最たる好例は、イタリアだ。
古くはカテナッチョ(イタリア語で閂の意)と呼ばれた専守防衛のスタイルで1930年代のW杯を2度制し、68年の欧州選手権と82年のW杯で優勝した時も、GKディノ・ゾフを中心とした堅守が最大の売りだった。2006年に4度目の世界一を遂げた時は、世代屈指の司令塔アンドレア・ピルロを擁していたものの、何よりも思い出されるのはDFファビオ・カンナバーロやGKジャンルイジ・ブッフォンら守備陣の奮闘だろう。
だがロベルト・マンチーニ監督のもとで生まれ変わった現在のイタリアは、短いパスをクリスプに繋いで相手ゴールに迫る、観ていて楽しいチームだ。