濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
寺山日葵(20)がAKARI(17)戦で感じた“那須川天心のセコンド力” 「目指している背中はもっと遠いところにある」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRISE
posted2021/05/26 11:00
寺山日葵(左)はセコンドについた那須川天心の支えの大きさを実感していた
神村「効いてる!」那須川「効いてない!」
寺山vsAKARIの最終5ラウンドには、寺山がパンチをもらった直後に転倒する瞬間があった。ダウンにも見えたがレフェリーの判断はスリップ。神村は「効いてる効いてる!」と勢いづいたが、那須川はすかさず「効いてない!」と声を被せた。それを聞いた寺山は「その通り!」と思ったそうだ。
「実際、ダメージはまったくなかったので。あの声に後押ししてもらいましたね」
ここで那須川が「やり返せ!」、「ちゃんとディフェンスしろ」といった声を出していたら、寺山の心を乱していたかもしれない。逆にAKARIは自信を持つだろう。また寺山は「向こうは効いてると思ってくれてるよ」という那須川の声も聞いた。「効いてる!」という相手陣営の声は判断ミスだ、むしろこちらのチャンスだというわけだ。
「天心も含めて、私たちのジムのセコンドはネガティブなことを言わないんです。たとえば、私はコーナーを背負いがちなんですけど、そこで“下がるな!”みたいなことは言わない。“そこから(狙っている攻撃に)つなげていいよ”とか“一回(間合いを)外していいよ”みたいな指示がくる。そうすると相手は“コーナーに下がるのも作戦なのか”って警戒してくれるじゃないですか」
中には「このままじゃ負けるぞ!」といった言葉で選手を鼓舞しようとするセコンドもいる。だがそれでは相手側に「向こうは劣勢を自覚してるんだ」と伝えてしまうことになるし、観客がそれを聞くことで会場の雰囲気が変わるかもしれない。最悪、ジャッジの印象に響く可能性もある。那須川はセコンドとして、自陣の選手、敵側の選手とセコンド、観客にジャッジまでも“相手”にしているのだ。
「私が目指している背中はもっと遠いところにある」
試合中は徹底的にポジティブ。選手の背中を押す。課題の指摘や反省は試合が終わってからでいい。その部分にもぬかりはなく、寺山によると試合後のリング上からさっそく「反省会」が始まっていたそうだ。それがあるから現状には満足していられない。もっと強くならなければと思える。一夜明け会見で寺山は言った。
「他団体にも闘いたい選手はいますし、そのためにも力をつけないといけない。私が目指している背中はもっと遠いところにあるので」
その“背中”が誰のものかは、説明するまでもないだろう。
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