濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「筋肉で私だってバレちゃうんです」 “乙女マッチョ”ぱんちゃん璃奈が「ポンコツの拳」で圧倒した“半年分の150秒”
posted2021/05/30 11:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Sachiko Hotaka
半年分の思いを込めた試合は、150秒で終わった。
「リングの上で輝きたい。とにかくその気持ちだけでした。花道に出た時点で泣きそうでした」
5月22日、キックボクシングイベント『KNOCK OUT』後楽園ホール大会で、女子BLACK(ヒジなしルール)アトム級王者のぱんちゃん璃奈はプロ10戦目を行ない、1ラウンドKOでMIREYを下した。昨年11月以来の試合で、KO勝ちは2度目だった。
主催者がつけたキャッチフレーズは“キューティー・ストライカー”。雑誌の水着グラビア、テレビ出演などメディア露出は女子格闘家の中でもトップクラスだ。だからこそ、本人には実力で認められたいという思いが強かった。
試合後に泣いたり反省している姿が記憶にある
もともと水泳、陸上の選手。熱心な練習ぶりは関係者の誰もが認めるところだ。コロナ禍の前は試合後の休暇でもムエタイの本場タイへ。休みとはいえ、ある程度は体を動かしたいという理由からだった。
プロデビューから負けなし、8戦目でタイトルを獲得した。順調なキャリアだ。しかし取材をしていて記憶にあるのは、試合後に泣いたり反省している姿。毎回「練習してきたことが出せなかった」と言っていた気がする。
それだけ自分に高いハードルを課しているのだ。注目度が上がれば上がるほど、誰もが納得する勝ち方をしたいとも思った。「ルックスで目立っているだけ」と言わせないために、必要なのはKO勝ちだった。より強い相手との闘いも望んだ。
だが前回の試合後、右拳の負傷で手術をすることに。試合からも離れた。その後も試合がなかなか決まらない。日本人の強豪とはタイミングが合わず、タイ人選手はコロナ禍で来日できなくなった。ようやく決まった相手がMIREY。1年半前、5戦目に闘って判定勝ちした選手だから、試合を受けてくれたことはありがたかったがテンションは上がらなかった。