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「ホームラン9本」は18年ぶりの低調だった…“投超打高”春の甲子園で見つけた高校生ショート「2人の逸材」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/04/09 18:10
優勝した東海大相模のショート・大塚瑠晏。筆者が今大会でも最も注目した野手のひとりだ(大塚は準決勝を前に急性胃腸炎で入院。準決勝・決勝を欠場した)
苦しい言い訳だが、それほどに昨年の東海大相模打線の迫力と破壊力はすさまじいものがあった。
広角長打の山村崇嘉(内野手・西武3位)、雄大な長打力の西川僚祐(外野手・ロッテ5位)、強打と機動力のリードオフマン・鵜沼魁斗(外野手・東海大)……高校生離れしたスラッガーたちが居並ぶ中、唯一小柄な2年生が不動のショートストップを務めていた。
「捕ってください」ボールが寄ってくる
センバツに出てくるぐらいだから、どこのチームの遊撃手も上手いのだが、大塚の場合は、試合前のシートノックから“雰囲気”が違った。
右に左に飛んでくるゴロを捕りに行っているように見えるうちは“普通”の遊撃手だ。大塚遊撃手の場合は、打球のほうから彼のグラブにすり寄っていくように見える。捕ってください……と寄ってきたボールをグラブでソフトに吸収して、次の瞬間、もう投げる右手に移し替えている。
詳しく解説すると大塚の「技術」は、グラブを出すタイミングが遅いことにある。
カーンといった瞬間にもうポーンとスタートをきって、軽快なフットワークで打球に向かうと、ギリギリまでグラブを使わずに、最後の最後でスッと打球を触りにいく。「捕る」ではない……触りにいくぐらいの感じのソフト感とさりげなさ。
子供の頃の名残りだろうか、高校生ぐらいだと、まだ早いタイミングでグラブを出した状態で捕りにいく内野手が多いが、これだと打球のちょっとした変化にも対応できず、エラーしやすい。大塚遊撃手は、ギリギリのタイミングまで足と目で打球の様子を見極めてからグラブを使うから、見ていて、打球のイレギュラーバウンドにも気がつかないほどだ。
捕球の「ふくらみ方」がにくい
1回戦、「東海大対決」になった「甲府」との一戦。
初回、先頭打者のピッチャー返しを二塁ベース後方に回り込んで吸収すると、体勢をキープしたままでストライクスロー。相手に強い「流れ」が向くのを阻止した。
レギュラーメンバーががらりと入れ替わったチームで、大舞台の雰囲気を知るのは、左腕のエース・石田隼都(3年・183cm73kg・左投左打)と彼ぐらい。主将にもなったこの大会、甲子園デビューの先発・石川永稀(3年・178cm80kg・右投右打)に再三言葉を投げかけながら、守りの「リーダーシップ」も発揮する。