マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校生キャッチャーの投げ方「力が入りすぎ」問題…なぜ捕手の肩&ヒジ“隠れ故障”が多いのか【春の甲子園】
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJiji Press
posted2021/04/08 17:05
マウンドで話す市立和歌山の小園健太投手(左)と松川虎生捕手。筆者は松川の投球フォームにも注目した
福岡大大濠との1回戦、9回まで二塁送球は一度しかブレなかった。許した盗塁はゼロ。逆に、自ら走者として二塁盗塁を敢行。走るスピードには驚かなかったが、一塁走者としてスタートの雰囲気を消し去って、サッと走ったあたりの感性が「捕手」だ。俊足じゃない捕手が意外と盗塁数を重ねるケースは、プロ野球でも少なくない。
私はタイムを計る習慣はないが、調の二塁送球タイムはおそらく1.9秒前後。捕球→投球の素早さは社会人野球のベテラン捕手がそこにいるようだ。
私が監督なら、こういう捕手のほうが足を使いにくい。足を使おうとするのは、こちらの「脚力」が向こうの「弱点」を上回った時だ。投手のクイックがヘタだったり、捕手の送球精度が低かったり……「地肩」はあまり脅威にならない。
送球に過剰な力感を感じない捕手とは、つまりフットワークで投げられる捕手だから、肩、ヒジの負担も「エイヤー系」よりずっと小さくて済む。捕手の甲斐性は「丈夫で長持ち」。レギュラーマスクが、肩が痛い、ヒジが痛い……では、全軍の士気にかかわるというものだ。
好投手・小園健太の“相棒”
大崎高・調祐李と同じような投球メカニズムを搭載している捕手は、少ないがほかにも何人かいる。貴重にして、稀少な人材たちだ。
県岐阜商との1回戦、市立和歌山・松川虎生捕手(3年・178cm98kg・右投右打)のファーストプレーが見事だった。
併殺狙いの一塁送球が高く抜けて、一塁側フェンスに達すると、見透かしていたようにバックアップに入っていた松川捕手がボールに追いつき、そこから二塁ベースカバーに入っていた遊撃手に投げたロングスローがすばらしかった。あわてず急がず、頃合いの力感で投げた送球がピシャリのストライク。二塁を狙った打者走者を、余裕で刺した。
このタイミングなら、これぐらいの送球で刺せる……初めての甲子園なら、ファールグラウンドの距離感も未知数だったろうに、まるで甲子園が「ホームグラウンド」のような日常感すらあった。
高校時代の炭谷銀仁朗のようだった
もっと「いいな!」と思ったプレーは、本塁からの二塁けん制のスローイングだ。