ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
2年連続Bクラス、順位予想も「近年でワースト」… 舞台裏で見守るファイターズ広報が信じる「心が躍る要素」とは
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph byKYODO
posted2021/04/02 11:00
好機に凡退し、悔しい表情を見せる日本ハム・大田
そして、迎えた開幕戦――。
3月26日、11時50分。仙台市内のホテルの中広間に、帯同していたスタッフ全員が集合した。楽天生命パーク宮城へとバスで出発する40分前である。スピーチが始まった。
まずは栗山監督が登壇した。今シーズンへかける思いなどを訴えると、宮西尚生投手と中田翔選手と投打の柱を指名して、決意表明を促したのである。トリは、新任の選手会長の近藤健介選手が務めた。
それぞれが思い思いに、個性あふれる演説だった。胸を打つような言葉の数々を連ね、チームメートたちへとぶつけていった。キャリアある選手だからこその含蓄ある厳しい忠言もあった。
張り詰めた中で、最後は恒例の儀式で締めた。水杯(みずさかずき)である。
毎年、開幕戦前の行事である。栗山監督が、そのシーズンにかける思いを象徴する語句をしたためた杯を、全員へと配る。そこへ水を入れて飲み交わし、長い1年の戦いへと船出をするのである。
今年、杯の底に記されていたワードは「刮目相待(かつもくそうたい)」だった。その故事にはいろいろな解釈があるが、栗山監督はファイターズの現状からこう説いたのである。「目を見開いて、本気で思って、本気でやれば変わろうと思えば人間は3日で変わることができる、成長できる」というような意図を伝えて、全員で水杯を交わしたのである。
答え合わせは「秋」、予想を裏切ってほしい
開幕から5試合を消化して1勝3敗1分である。評論家の方々の予想通り、快調とはいえないスタートになった。
フラストレーションがたまる試合後、開幕からスランプに陥っている大田泰示選手は黙々とブルペンでバットを振り込んでいた。人目をはばかることなく、落ち込んでいた。ほかにも、思い通りの打撃ができず、うなっている主力の姿も何人も見た。
3月31日の一軍初登板初先発で好投しながら白星を逃したドラフト1位伊藤大海投手は降板後、すぐにベンチへと戻ると気丈に、懸命にチームメートを鼓舞していた。
その同じ試合で2度の満塁機で凡退した3年目の野村佑希選手は、その後の2打席で安打を放ってチャンスメークした。凡退時の表情からは自分への怒りがあふれ、取り返そうとする必死さは、明らかだった。
開幕前までさらに振り返れば、数人からこぼれる涙を見た。一軍スタート目前で開幕メンバーから漏れたことを通達された若手たちは、子供のように泣きじゃくっていた。今、ファームで虎視眈々と、浮上のチャンスをうかがっている。
近年でワースト評価といっていい北海道日本ハムファイターズの2021年が幕を開けた。
現実を直視した順位予想の答え合わせは、秋になる。どうにか裏切ってほしい。淡いのかもしれないが、密かにそんな期待を寄せる球春を迎えることができている。
広報としてのぞき見している舞台裏。そこを刮目すれば、心が躍るような要素をいっぱい見つけられているのである。
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